日本では首都・東京にある3つのクラブがJ1で戦っているが、その中で最も苦戦しているのが、FC東京だろう。現在、3クラブ…

 日本では首都・東京にある3つのクラブがJ1で戦っているが、その中で最も苦戦しているのが、FC東京だろう。現在、3クラブ中で一番下の「15位」に沈んでいるが、先週末のリーグ戦では、名門・鹿島アントラーズ相手に丁々発止の好ゲームを演じた。それは、今後の「上昇の兆し」なのか? サッカージャーナリスト後藤健生が、試合を中心に徹底分析する!

■「とても良かった」佐藤恵允との関係性

 前半のFC東京の攻撃を支えたのが、冒頭で紹介したベテラン中心の最終ラインだった。

 まず、ドリブル突破やクロスで再三チャンスを演出した長友佑都の動き。衰えを知らぬ運動量と経験豊富な選手らしい、タイミングの見極め。そして、右サイドハーフの佐藤恵允との関係性もとても良かった。

 もう1つは、アレクサンダー・ショルツのパスのうまさ。

 25分の長友のクロスからの長倉幹樹のシュートに至ったチャンスの場面で長友を走らせたのがショルツからのパスだったし、32分には前線から落ちてきたマルセロ・ヒアンにショルツのくさびのパスが入り、そこから長倉、佐藤を経由して長友に渡り、チャンスを作った。さらに34分にはショルツからサイドを変える斜めのパスが出て右サイドの室屋成が起点になって、そこから再び大きくサイドを変えて、やはり最後は右サイドの長友のクロスが鹿島のゴールを脅かした。

 圧巻は39分のショルツからマルセロ・ヒアンへのパス。ボールはマルセロ・ヒアンから左の俵積田晃太に渡り、俵積田のクロスが鹿島ゴール前を横切った。

 そのショルツのパフォーマンスを引き出したのは、GKの金承奎(キム・スンギュ)だった。

 J1リーグでは第25節から、いわゆる「8秒ルール」が適用されるようになったが、金承奎はけっして急ぐことなく落ち着いてボールを処理して、うまくショルツを使った。また、ショルツや金承奎がプレッシャーをかけられたときに、パスで逃げられるようにサポートした岡哲平の動きも非常にクレバーで、足を止めることなく絶えずポジションを修正し続けた。

■「前線のポジション」が目まぐるしく変化

 さて、スコアレスで迎えたハーフタイムで、鹿島の鬼木達監督は右サイドハーフの荒木遼太郎とボランチの舩木佑を下げて松村優太知念慶を投入。以後、積極的に選手交代を使って攻撃力を上げていった。

「前半は守備の狙いが引っ繰り返された。それでもゼロで抑えられたので、後半から出てくる選手につなげた」と鬼木監督。

 前半のように攻め込まれる時間が長くても、そこを我慢して無失点でしのぎ切れば、交代選手を使ってパワーを上げられるという自信があるからこそ鹿島は焦らずに戦えるのだ。

 鈴木優磨とレオ・セアラという絶対的存在を中心に、周囲の選手を次々と投入することで時間の経過とともにエネルギーを上げることができるのだから、相手にとってはやりにくいことだろう。

 しかも、単に選手が変わるだけではなく、目まぐるしくポジションを変えるのだ。

 FC東京戦での前線がどのように変わっていったのか? 時間の経過とともに振り返ってみよう。時間帯ごとに前線4人の並びである(これ以外にも、小さなポジションチェンジが頻繁に行われる)。

 先発時:チャヴリッチ-鈴木-レオ・セアラ-荒木
 40分:荒木-鈴木-レオ・セアラ-チャヴリッチ
 後 半:松村-鈴木-レオ・セアラ-チャヴリッチ
 55分:鈴木-レオ・セアラ-チャヴリッチ-松村
 61分:鈴木-レオ・セアラ-田川-松村
 75分:樋口-鈴木-田川-松村
 79分:溝口-田川-鈴木-松村

 フレッシュな選手が次々と投入され、しかも並びがこれだけ変わるのだから、相手チームにとっては対応が難しくなるのは当然だ。

■鹿島が突いた「選手交代」で生まれた隙

 そして、FC東京戦では61分に投入された田川亨介が81分に決勝点を決めた。

 中盤でパスをつないだ後、右サイドにいた鈴木からのグラウンダーのクロスに田川がうまく左足で合わせたゴールだった。

 79分に鹿島は、三竿健斗に替えて溝口修平を投入。溝口は左サイドに入り、それまで左にいた樋口雄太はボランチに下がっていた。そして、その直前の78分にFC東京はマルセロ・ヒアンに替えて仲川輝人、左サイドの俵積田に替えて野澤零温を入れていた。

 鹿島の決勝点は、選手交代によって生まれたちょっとした隙を突いたものでもあったのだ。

 FC東京は52分に左SBの室屋が負傷してバングーナガンデ佳史扶に交代させていたので、左サイドの2人が変わっていた。そして、鹿島はそのFC東京の左サイドを突く攻撃で決勝点を決めたのである。

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