ホセ・アルナイス。 今はまだ、日本でその名前を知るのはコアなサッカーファンだけ。しかし、スペインではすでに多くのス…

 ホセ・アルナイス。

 今はまだ、日本でその名前を知るのはコアなサッカーファンだけ。しかし、スペインではすでに多くのスポーツ紙が一面で書き立て、一大センセーションを巻き起こしている。10月24日、スペイン国王杯でバルサのトップデビューを飾った。ディフェンダーを置き去りにする刮目(括目)すべきゴールで、チームに勝利をもたらした。



デビュー戦でゴールを決めたアルナイス

「今にメッシを王座から下ろすぞ!」

 そう騒ぐ、気の早い人々もいる。

 今はバルサの二軍に当たるバルサB所属だが、22歳の若者の実力とは?

「アルナイスは、ボールを受けたら、ゴールに向かう、そういう天性を持っている。頭の中に常にゴールがある。とにかく速く、両足を使え、シュートも強烈。ボールを持って挑んでいるときにはゴールがイメージされているんだ」

 アルナイスを獲得したスカウト、ファン・カルロスは語っている。

 この夏、バルサはホセ・マリア・バケーロGMの果敢な決断と粘り強い交渉によって、レアル・マドリード、ユベントス、ナポリ、セビージャなどビッグクラブとの獲得合戦に勝利し、アルナイスを手に入れている。340万ユーロ(約5億円)の移籍金は他よりも安かったが、2部のバルサBでプレーさえる一方、トップ昇格の可能性を示唆。「トップチーム10試合出場で約200万ユーロ(約2億6千万円)を追加」という条件で、契約を結んだ。

 そして3カ月足らずで、市場価値は2000万ユーロ(約26億円)以上に跳ね上がったといわれる。

 アルナイスはいわゆる無名の選手だった。スペインのユース年代で注目されたこともない。2016年の夏までは2部バジャドリーのBチームでのプレーが主戦場。アマチュア選手に等しい。

 では、アルナイスのなにが目の肥えたスペイン人を騒がせているのか?

「めっちゃ速かったです。いつの間にか逆を取られている感じでした」

 2016―17シーズン、アルナイスと対戦した鈴木大輔(タラゴナ)は語っているが、稲妻を思わせるスピードが武器になっている。

 凄まじい高速プレーの中で、ボールタッチが乱れない。少しでもスペースがあると、すかさず入り込み、両足でのドリブルで相手の裏を取ってしまう。そしてドリブルからのシュートが、ふてぶてしいほどに落ち着いている。

「Desborde y Gol」(突破とゴール)

 ふたつが結びついている。どちらかの選手は少なくないが、どちらも持っている選手は少ない。

 そんな選手が埋もれていたのには、地理的な要因が理由のひとつに挙げられる。アルナイスの出身地であるカスティーリャ = マンチャ州のトレド県、タラベラの周辺はサッカーが盛んとは言えない。距離的に近いエストレマドゥーラ州は不毛の地とさえ言われ、1部どころか、2部にもクラブがないのだ。

 アルナイスは原石のまま、18歳にしてようやく最も近くにあった2部のクラブ、バジャドリーのユースに見出される。19歳でBチームに昇格し、20歳でトップチームデビュー。もっとも、当初は目立った活躍はなかった。

 それが21歳で挑んだ昨シーズン、11得点して一気に注目を浴びた。

「プレシーズンを一緒に過ごし、もうBチームのことは考えるな、と言ったよ。それだけ、ものが違ったね。才能が埋もれているということはあるのさ」

 バジャドリーを率いることになって、アルナイスを真っ先に抜擢したパコ・エレーラ監督はその才能を愛(め)でたが、こうも付け加えている。

「まだまだスピードだけで勝負する場面があり、学ぶべきことはたくさんある。スペースのあるカウンター勝負なら十分に通用する。しかしバルサのようなチームでは、スモールスペースでのボールテクニックも向上させなければならない」

 アルナイスはまだまだ未知の選手と言えるだろう。

「素晴らしい原石だが、バルサは近年だけでも、ボージャン、デウロフェウ、ムニルらが10代でデビューして騒がれた。しかしいずれもまだ、成功したとは言えない。相当に厳しい競争になるだろう」

 バルサの番記者がそう語っているように、その道のりは険しい。来シーズンはアトレティコからアントワーヌ・グリーズマンを獲得するという噂も出た。さらにU―17W杯で台頭著しい17歳のアベル・ルイスのような若手の突き上げもある。

 ただアルナイスには、何かをやってのける、という気配が漂うのだ。

 その天性はストリートで育まれた。子ども時代は自宅のガレージをゴールにし、友人たちと奔放にボールを蹴った。かなり騒々しかったため、近所でトラブルになったこともあったが、それでもボールを離さなかったという。

 少年時代の地域大会ではシーズン前半はFW、シーズン後半はGKでプレーし、得点王と最優秀GKを獲得した。お山の大将とも言えるが、そのスケール感はつかむのが難しい。バジャドリーとユース契約をしたときも、最初にスカウトされたのは別の選手で、そのバーターに近かった。どう転ぶかわからない選手で、底が見えない。誰の手も入らなかったことで、何者とも知れない野生が、きっと人々を引きつけるのだろう。

「フットボーラーはストリートで育つ。そういう自由な感性のある選手を、バルサは必要とする」

 現在のバルサのスタイルの始祖ともいえる、ヨハン・クライフの言葉である。