<2025年8月7日(木)~11日(月・祝)WTTチャンピオンズ横浜 @神奈川県・横浜BUNTAI>男子日本のエース・張…

<2025年8月7日(木)~11日(月・祝)WTTチャンピオンズ横浜 @神奈川県・横浜BUNTAI>

男子日本のエース・張本智和(トヨタ自動車)が自国開催で歴史的優勝を果たし幕を閉じた「WTTチャンピオンズ横浜」<8月7日(木)〜11日(月・祝)/横浜BUNTAI>

その華やかな大会で、とあるルールが物議を醸した。

それが、メディカルタイムアウト(MTO)だ。

あらかじめ断っておくが、本稿はMTOを使った選手や制度に意見するものではない。目的はあくまでも客観的にルールを確認し、認識を整理することにある。


WTTハンドブック


ー WTTハンドブックに記された「メディカルタイムアウト」 ー

ルールを巡る議論が起きたとき、直ちに確認すべきはルールブックだ。

言うまでもなく競技はルールに則って行われる。WTTのルールは「WTTハンドブック」に従う。

WTTハンドブックは公式サイトの「TECHNICAL DOCUMENTS」から閲覧可能だ。そこにはMTOに関してこう書かれている。

【『WTT Handbook―WTT Series & Feeder Series 2025』(P88〜89)より抜粋】

o) プレーの継続

v) 主審は、プレーの継続が一時的に不可能となる事態が発生した場合、緊急的に「メディカルタイムアウト」を認めることができる。この場合の最大時間は5分を超えてはならない。

vi) それ以外の医療的状況で、その大会で初めて発生し、選手の体力的状態による筋肉の痙攣や疲労でなく、かつ主審が判断して相手選手に著しく不利にならない場合には、進行中のゲーム終了時から「メディカルブレーク」を与えることができる。

メディカルブレークは最大2分間で、1分間のゲーム間休憩を加えて合計3分間とする。この時間はWTT理学療法士またはイベントドクターによる評価および治療に使用される。

WTT理学療法士またはイベントドクターの裁量により、競技者がまだメディカルタイムアウトを使用していない場合、メディカルブレークをメディカルタイムアウトに変更できる。

競技者は、メディカルタイムアウトの直後にメディカルブレークを取ることはできない。

さらなる治療が必要な場合は、通常のゲーム間の1分間でのみ実行できる。


女子2回戦 早田ひながメディカルタイムアウト 写真:西村尚己/アフロスポーツ

vii)競技領域内の誰かが出血している場合、プレーは直ちに中断され、競技領域からすべての血痕が取り除かれるまでプレーは再開されない。競技者に出血が発生した場合、メディカルタイムアウトルールが適用される。

viii)競技者は、審判の許可がない限り、個々の試合中、競技領域内またはその近くにとどまるものとする。試合とタイムアウトの間は審判の監督の下で、競技領域から3メートル以内にとどまるものとする。 ※   ※   ※


男子決勝 張本智和がメディカルタイムアウト 写真:森田直樹/アフロスポーツ

つまり、今大会で早田ひな(日本生命)が女子シングルス2回戦で使ったMTOも、張本智和(トヨタ自動車)が男子シングルス決勝で使ったMTOも、いずれも「v」に規定された主審判断による適用だったと見られる。

また、MTOとメディカルブレーク(MB)は別であり、MBの治療者は「WTT理学療法士またはイベントドクター」と明記されているのに対し、MTOに関する指定は特にない。


ITTF Statutes 2025


ー WTTとITTFで微妙に異なるルール ー

今大会のMTOを巡る議論に際し、一部で国際卓球連盟(ITTF)のルールを引用するケースも見られたが、実はWTTとITTFではややルールが異なっている。ITTFの場合はこうだ。

【『ITTF Statutes 2025』(P56)より抜粋】

3:国際大会規則
3.4.4.4)主審は、競技者が事故により一時的にプレー不能となった場合に、可能な限り短時間の中断を許可することができる。ただし、その中断は最大でも10分までとし、さらにその中断が相手競技者またはペアに不当に不利にならないと主審が判断した場合に限る。

3.4.4.5)試合開始時点ですでに存在していた、または予測可能であった障害、あるいは通常のプレーによる疲労や消耗などに起因する場合には、中断は認められない。例えば、競技者の現在の体調や試合の進行によって引き起こされた痙攣や極度の疲労は、このような緊急中断の正当な理由とはならない。この中断は、転倒によるケガなどの事故によって生じたプレー不能の場合のみに許可される。

3.4.4.6)試合会場内の誰かが出血している場合、試合は直ちに中断され、その人物が医療処置を受け、かつ会場内から血液がすべて取り除かれるまで再開してはならない。

3.4.4.7)競技者は、個人戦の間は主審の許可なしに競技領域から離れてはならない。ゲーム間の休憩やタイムアウト中は、主審の監督のもと、競技領域から3メートル以内にとどまらなければならない。

WTTとITTFの主な違いは、ITTFのルールにMB(メディカルブレーク)がない点。中断時間はWTTが最大5分、ITTFは最大10分という点。

そしてITTFは、試合前からあった痛みや試合中の筋肉の痙攣、疲労にMTOによる中断を認めていない点にある。 ※   ※   ※

例えば2016年リオデジャネイロ五輪のとき、当時現役選手だった石川佳純(全農)さんが女子シングルス3回戦でフルゲームにもつれ込み、右ふくらはぎが痙攣してMTOを要求したが認められなかった。

この事例から、ITTF主催大会はWTTよりも規定が厳しいことが分かる。

そう考えると、早田のケース(尺骨神経の圧迫による痺れ)がもし五輪や世界選手権だったら...。試合開始時点ですでに存在し、予測可能な痛みと見なされMTOは認められないことになる。

ちなみに1年前のパリ五輪で、早田は利き腕に酷い痛みを抱えながら女子シングルス3位決定戦を戦ったが、MTOは取らなかった。  

なお、日本卓球協会(JTTA)のルールはITTFに準じている。

(文=高樹ミナ)