(12日、第107回全国高校野球選手権大会2回戦 東大阪大柏原0―3尽誠学園) 東大阪大柏原に先制の好機がやってきた。…

 (12日、第107回全国高校野球選手権大会2回戦 東大阪大柏原0―3尽誠学園)

 東大阪大柏原に先制の好機がやってきた。

 五回表2死二塁。この日の8番打者、竹本歩夢(あゆむ)捕手(3年)に打順が回ってきた。しかし、打席には立たなかった。

 「自分はもう打てない。チームのためになるなら、ゆずる」

 2日前から左手首のあたりに痛みを感じるようになった。病院で骨折していないことを確認したが、普段のようにバットは振れなかった。

 初回から球を受けるたびに痛んだ。二回裏には相手のバントに対し、「持ち替えたら時間がかかる」と右手で打球を捕って二塁へ送球し、一塁走者の進塁を許さなかった。三回表の初打席は「どんな球が来ても振る」と片手でバットを振った。

 大阪大会では4番打者として引っ張ってきた竹本選手。土井健大監督からの交代の打診には葛藤も覚えた。それでも、「ベンチでやれることはある」と受け入れた。主将でもある自身の大きな決断だった。

 「おまえが変わらないなら、甲子園には行けない」。この春、土井監督から言われた。

 打撃の調子が悪ければ気合が入らない。捕手としても自分本位だった。仲間にも「おまえが変われば、俺らは勝てる」と言われた。練習中も試合中も、何度も何度も。

 「どう変わったらいいんやろ」。自問自答を繰り返した。

 そして、練習でも試合でも、すべてにおいて向き合う姿勢を変えた。投手にも練習の調子がいま一つだったら「動画を撮るから今日、修正しよう」と声を掛けるようになった。「チームのために変わった男」として名前があがるようになった。

 3点を追う八回表。打席に立つ広浜泰選手(2年)に「どこよりも練習している。弱気になるな」と声をかけた。「竹本さんの言葉で気持ちが楽になった」という広浜選手はレフトへのヒットを放った。試合が終わるまで、大きな身ぶりで仲間を鼓舞し続けた。しかし、捕手として九回までプレーすることはかなわなかった。

 「最後まで自分を出してくれた監督に感謝している。みんな、最後までついてきてくれて本当に良かった」

 試合後に出た言葉は、共に歩んだ監督と仲間への感謝だった。(渡辺萌々香)