来年2026年に北中米で行われるワールドカップ開催まで、すでに1年を切った。世界中のサッカーファンが楽しみにしている大…
来年2026年に北中米で行われるワールドカップ開催まで、すでに1年を切った。世界中のサッカーファンが楽しみにしている大会だが、すでに問題点が浮上している。世界最高の大会にするために、クリアすべき「大問題」とは? サッカージャーナリスト大住良之が緊急提言!
■「ヒホンの恥」酷評で最終節は同時刻に
ワールドカップにおける「テレビの時代」の影響が決定的になるのは、放映権料が一挙に7倍近くに高騰した2002年の日本・韓国大会以後だが、それ以前も、大会を追うごとにテレビの影響は強くなっていった。1986年、2回目のメキシコ大会では、全52試合中の約3分の2にあたる35試合が正午キックオフになった(残り16試合は16時キックオフ)。1970年には、観客の都合を考えて「日曜限定」だった12時キックオフだったが、完全に「欧州のテレビ向け」の大会となったのだ。
16時キックオフの17試合の多くは、すべて同日開催の12時の試合とのキックオフ時刻をずらせるためだった。16時に同時に2試合が行われたのは、F組の最終日、イングランド×ポーランドとポルトガル×モロッコだけだった。
1982年のスペイン大会のB組(西ドイツ、オーストリア、アルジェリア、チリ)の最終節は、6月24日にアルジェリア×チリ、翌25日に西ドイツ×オーストリアが組まれていた。アルジェリアが勝って勝点を4に伸ばしたが、翌日の試合は1-0で西ドイツの勝利。その結果、3チームが勝点4で並び、得失点で1位西ドイツ、2位オーストリア、3位アルジェリアとなってアルジェリアは敗退した。
もし西ドイツが4-0で勝っていれば、2位と3位が入れ替わるところだったため、「オーストリアとの談合で1-0のまま終わらせた」という憶測が流れ、試合地を入れて「ヒホンの恥」とまで酷評された。このスキャンダラスな話を受け、以後の大会では「グループステージの最終節は同時刻キックオフで行う」ことになったのだ。1986年メキシコ大会のF組の最終節がともに16時キックオフとなったのは、このためだった。
■日程は「12月の組み分け抽選会」後に決定
1994年のアメリカ大会のキックオフタイムは、より複雑だった。なにしろ、「東部」でロンドンと5時間、パリと6時間、「中部」でロンドンと6時間、パリで7時間、「西部」になると、ロンドンと8時間、パリと9時間の時差がある。すなわち、アメリカ国内の会場都市間でも最大3時間も時差があるのである。その結果、通常どの大会も数種類しかないキックオフタイムが、この大会では12種類も使われることになる。
11時半、すなわち「午前中」のキックオフまで、2試合あった。この2試合を含め、午後1時までのキックオフが全54試合中28試合。フロリダ州オーランドは、この大会でも会場のひとつだったが、ラウンド16まで5試合が行われ、4試合が12時半、1試合が12時のキックオフだった。この年のオーランドは酷暑に襲われ、気温が華氏100度(摂氏37.7度)を超した試合もあった。
2026年の「アメリカ・メキシコ・カナダ大会」は、試合日程はすでに発表され、6月11日にメキシコ・シティでメキシコが、12日にはロサンゼルスでアメリカが、そしてトロントでカナダが初戦を戦うことになっているが、キックオフ時間はまだ発表されていない。12月に開催される組分け抽選会(日時場所未定)後に決められるという。
■観客の「熱中症リスク」を下げるために…
ワールドカップはサッカーの世界最高峰を決める大会である。世界中のサッカー選手が夢に見、サッカーファンがあこがれる大会である。その試合は、最高のコンディション下で行われなければならない。チームが、そして選手たちができるだけ快適に試合ができ、ファンが楽しく観戦できる時刻に設定しなければならない。あくまで競技を優先し、選手たちが通常試合をしている時刻、早くても15時以降をキックオフタイムにすべきだ。
今大会にはいくつかの開閉式屋根あるいはドーム式のスタジアムがあるが、一方で観客席を覆う屋根さえほとんどないところもある。そうしたスタジアムでは、12時や13時キックオフというのは観客にとっても熱中症のリスクが高くなる。
国際サッカー連盟(FIFA)は、ワールドカップからの収益で、すなわちワールドカップに対して支払われるテレビからのおカネで、4年間の活動資金の大半を稼いでいる。しかしだからといって、テレビの都合のままに選手やファンに苦痛を強いてもいいのだろうか。FIFAという組織は、何よりも世界中のサッカー選手とファンの存在に依って存在していることを忘れてはならない。その選手たちとファンにとって最も快適なキックオフタイムを決めなければならない。