ABCテレビとテレビ朝日で共同制作している熱闘甲子園のスタッフは約100人。ディレクター、カメラ、映像編集、音響、CG…
ABCテレビとテレビ朝日で共同制作している熱闘甲子園のスタッフは約100人。ディレクター、カメラ、映像編集、音響、CG制作まで、系列各局などから様々な分野が集まり、20~30年と携わる人も多い。
スタンドへ放たれた打球音、球を追う観客の視線、息が止まる瞬間の無音。そして球場の歓声が戻ってきて我に返る演出――。こうした「甲子園の音」を生かした独特の編集は、45年続く番組だからこそ生まれた。
夜の30分放送で1日最大4試合。1試合に約4分しか使えないこともある。試合ごとにつく担当ディレクターは朝から甲子園で取材し、試合のシーンを約20台のカメラ映像から選び、選手の表情に添えるナレーションの言葉も考え抜く。予想と違う試合展開、少ない編集時間。放送の数分前に編集が終わる日もある。
そして、当日の放送から泣く泣く削る話も多い。決勝日の「大エンディング」や準決勝日の「手紙」といった他コーナーに20秒でも入れられないか、担当者は最後まで努力を続けるという。
テレビ朝日の古賀佐久子プロデューサー、ABCテレビの赤塚欣也プロデューサー、番組の今村圭介編集長が共に大切にするのは、「球児らが何度も見たくなる30分間をつくること」だ。
試合では笑顔より涙の方が多いかもしれない。ただ、試合で出たミスの表現を和らげたり、流した涙の後に宿舎での笑顔を2秒でも添えたり。何度も見たくなる30分間のために「最後に笑って終われる工夫」を欠かさない。
今村さんは「熱闘甲子園の制作陣は、どこまでも球児ファーストで、とことん人に向き合う」。最後の最後まで粘る制作陣の姿が、45年間引き継がれているという。
今年の熱闘甲子園のテーマは「涙は、強さになる。」だ。赤塚さんは「毎年テーマは違えど、熱闘甲子園が伝えるべきものは45年変わらない」。熱く戦う球児の姿から、見る人に明日への活力を届けたいと願っている。
■熱闘甲子園ナレーター「伝え手として成長」
ABCテレビの藤崎健一郎アナウンサーは熱闘甲子園のナレーターを務めて20年目。その一日は、朝の甲子園取材から始まる。試合の空気が変わる瞬間、息をのむ瞬間、球児の表情が変わる瞬間、涙する瞬間。全てを体感するのは、ディレクターたちが制作した映像に言葉を乗せるためだ。ただナレーションを読むのではなく、現場で見たからこそできる心の動きを表現する。
10年ほど前、あるディレクターから教わった。「熱闘甲子園は、映像、音、言葉、その全ての一体感が何よりも大切」
他番組より短く、表情の変化やわずかな音を引き立てるナレーションは最近ようやく納得できる出来になった。番組は今も「伝え手として成長させてくれる場所」だ。
ナレーターとして番組に加わったのは2006年。最初は前任者や先輩のナレーションの雰囲気を習うことで精いっぱいだった。当時、何度も取り上げたのが、早稲田実エースだった斎藤佑樹さん。2年前、その斎藤さんが番組のキャスターに就任した。「不思議な感じもするし、長いこと番組をやってきて良かったなと思いましたね」と笑った。
■中継の名物は「ワイプCM」
球場やスタンドの熱気をさえぎることなく映しながら、画面下3分の1に流れる「ワイプCM」は、ABCテレビの夏の甲子園中継の名物となっている。
選手権大会のテレビCMは1961年から。アマチュアスポーツの趣旨を尊重したスポンサー会社からの提案で、試合中はCMを流さず、中継の前後に会社名のテロップを入れるのみだった。
翌62年にはイニング間などのインターバル時に、画面の下部に社名を告知するCMに。画面上はスタンドの観客の表情を追い、話題を呼んだ。
63年にはスポンサーの事業内容をアニメにして放送。現在まで同じ形で続いている。