理想の監督像は? ありきたりな記者の問いに対し、サッカー界では少し意外とも思える答えが返ってきた。 「プロ野球日本ハム…

 理想の監督像は?

 ありきたりな記者の問いに対し、サッカー界では少し意外とも思える答えが返ってきた。

 「プロ野球日本ハムの新庄剛志監督です」

 9日に開幕するサッカー女子WEリーグの強豪INAC神戸レオネッサで今季から指揮をとる宮本ともみ監督(46)は力を込めて言う。

 「プロの世界は、エンターテインメントだと思うんです。人がどれだけお金を払う価値があるか。そういうところを一番理解して、表現している。なんか、かっこいいですよね」

 出産を経て、日本代表(なでしこジャパン)で活躍したキャリアを持つ。昨年までは、なでしこジャパンのコーチを務め、女子ワールドカップなどの国際舞台も経験した。

 2024年夏のパリ・オリンピック(五輪)は準々決勝で米国に敗れた。「このままでは指導者としての成長はない。もっと自分が責任を負いたい」とプロクラブの監督に初めて挑戦することを決めた。

 危機感もあるのだという。

 「みんな、『WEリーグ大丈夫?』とか、『本当に続くの?』みたいなこと言うじゃないですか。ああいうの、めちゃくちゃむかつくんです」

 プロ化して5季目を迎えるWEリーグは、課題も多く抱える。有望な若手の海外移籍が続き、観客数も伸び悩む。

 ただ、自らが選手としてプレーしていたころはもっと危機的状況だった。

 1990年代後半には、不況のあおりを受けて実業団チームが次々と日本女子サッカーリーグから撤退。自身は市役所やケーキ店で働きながらプレーし、アテネ五輪出場を決めた。リーグ存続すら危ぶまれた時代だった。

 「プロリーグを作ったのだって、大変だった。それを続けるのは何倍も大変なこと。今、環境がよくなって、選手も育つようになった。これを続かせることは義務でしょう」

 若手に交じってダッシュする動画がバズって注目を集めれば、「関連したTシャツ、作れないかな?」とスタッフに持ちかける。ホーム開幕戦の前にビラ配りが必要といわれれば、選手とともに率先して、街頭に立つ。

 人をワクワクさせる。見ている人に、何かを感じてもらう。

 ピッチで選手たちに求めるのも、そんなサッカーだ。

 五輪後、自費で欧州に渡り、3カ月、イングランドの男子のユースチームの指導をした。現地で男女のトップの試合も見て、感じた。

 「やっぱりゴール前の攻防で一番、観客が『わーっ』と盛り上がる。練習も、とにかくプレーを途切れさせない。それは、今も意識している」

 WEリーグを牽引(けんいん)してきた初代王者の強豪で、人を引きつける、魅力的なサッカーを掲げる。

 過去4季、WEリーグを制したチームの監督は全て男性。現在12クラブあるチームを見ても、女性監督は3人しかいない。

 そんな話を振ると、「全体の割合の問題じゃないですか」という。

 24年の日本サッカー協会の統計によると、日本の登録指導者9万7446人のうち、女性の割合はまだ3・7%にあたる3652人しかいない。

 「優勝できない男性監督だって、たくさんいるじゃないですか。女性だから優勝できない、ってことではないですよね」

 「私が女性の価値をあげるために頑張るということもない。男性だから、女性だからではなく、ただ、この12チームのなかで一番優れているか。そのために全力を出すだけ」

 自分が成長を求めることで、周囲に影響を与えてきた実感もある。

 「出産して、日本代表に戻るということも、自分では特別なことをしたなんて思っていない。ただサッカーをやりたかったから、やっていただけ」

 「今回も46歳で留学して、監督も初経験で、というと、周りから『すごいね』といわれて。ああ、そう見えるのかと。別に勇気づけるつもりで頑張ることはないけど、自分が挑戦することで、誰かが何かを感じてくれたら」

 今季のINAC神戸の初戦は10日。自然体で、新人監督は挑んでいる。(照屋健)