ユース教授こと安藤隆人が、2025年のインターハイで才能の原石を発見。GK・DF・MF・FWの4ポジションから1人ずつを…

ユース教授こと安藤隆人が、2025年のインターハイで才能の原石を発見。GK・DF・MF・FWの4ポジションから1人ずつを紹介する。第3回は準優勝で今大会を終えた、昌平高校のMF長璃喜だ。

(第3回/全4回)

ボールを持つと、空気感が違う。ドリブラーは高校年代でも数多くいるが、昌平高校MF長璃喜の繰り出すドリブルは、他とは一線を画すものがある。

ひらりひらりとテクニックで相手をかわしていく選手、スピードでぶっちぎっていく選手。そして、この2つを持ち合わせている選手と、いろいろなタイプが存在するが、彼はどれにも属さない。

エンジン音が聞こえるような初速の加速力を見せると、低重心のままボールを一気に運んで行く。DFがコースを阻んできても、細かいボールタッチとボディフェイントでかわして、さらに加速していく。

一度スピードを止められても、そこから高速シザーズを仕掛けて再び加速してかわしに行ったり、周り預けてからそのまま前に加速して行ったりと、ストップ&ダッシュの質とプレーの連続性を持つ。

そのドリブルは、膝とボールの距離が近い。股関節が柔らかく、スプリント中の足の回転が非常に速い。常に足にボールが触れているために、相手DFの出方をギリギリまで見て、逆を取ったり、シンプルにスピードで抜いたりできるからこそ、相手DFは無闇に飛び込めない。

まさに地を這うような弾丸ドリブラーは、1年生の時から全国の舞台で圧巻のプレーを見せてきた。

1年時の高校選手権では3試合連続で途中出場からゴールを決め、ベスト8進出の立役者となった。2024年は初昇格を果たしたプレミアリーグEASTでも6ゴールをマーク。そして、初の全国王者に輝いた2024年度のインターハイ決勝・神村学園戦では、ハーフウェーライン付近でボールを受けると、高速ドリブルで一気にゴール前まで運んで行き、強烈な右足シュートを叩き込むなど、2ゴールの活躍を見せた。

その一方で苦悩の連続でもあった。1年時の活躍もあり、周りから対策され、複数マークにつかれることが増えた。長の加速力を考えて、飛び込むのではなくファーストディフェンダーもセカンドディフェンダーも一定の間合いを開けてブロックを敷いてくる相手もいた。

「警戒される中で何ができるか。苦しい時に何ができるか。オフ・ザ・ボールの動きで相手を惑わすなど、やれることをもっと広げていきたいと思っています」と口にするように、相手の守り方に対して、シンプルにポゼッションに切り替えて飛び込んでくるタイミングを待ったり、運ぶドリブルを仕掛けて食いつかせてからパスと突破のドリブルを組み合わせて自分の得意とする形に持ち込んだり、自分の武器をどう活かすのかを工夫をした。

だが、夏の王者として臨んだ選手権埼玉県予選準々決勝で聖望学園にまさかの敗戦。そして、今回のインターハイでは準々決勝で準優勝した大津に0ー5と大敗を喫した。

「何をしても防がれるし、何をしても奪われるし、初めての経験でした。選手権予選でも感じましたが、もっとチームが苦しい時に点を取ったり、個で打開する力をもっと身につけたりしないといけないと痛感しました」

ドリブラーゆえに、飛び抜けた個性を持っているがゆえに、ぶち当たる徹底した対策。これまで多くのドリブラーが、その壁に挑んできた。堂安律、三笘薫、伊東純也はそれを創意工夫を繰り返し、不動の信念を持って打ち破って来た者だ。

この壁を打ち破れずに停滞する者も少なくない中で、ブレイクスルーした者はただのサッカー選手ではなく、スペシャルな才能を持った逸材に磨き上げられていく。

ブレイクスルーできる1人になれるのか。それは時が経たないとわからないが、長は間違いなく『候補生』ではある。

「突破のドリブルだけではなく、ボールを中盤や中、外で受けて、周りの選手が前に行きやすい、思い切って飛び出せるようなドリブルをしたい。突破のドリブル、運ぶドリブル、繋げるドリブル、周りを生かすドリブル。バリエーションを持って、どんな時も常に次にシナリオを描きながらプレーできるようになりたいですし、最後は決め切るドリブルができる選手になりたいと思います」

次々と襲いかかる壁に葛藤しながらも、怯むことなく突き進んだ先にはなりたい自分が存在する。そのことを誰よりも本人が理解しているからこそ、未来を切り開く術として閃光のようなドリブルをひたすら磨き続けていく。