(5日、第107回全国高校野球選手権大会1回戦 創成館―小松大谷) 「野球道具の110番」として30年以上、創成館を支…

 (5日、第107回全国高校野球選手権大会1回戦 創成館―小松大谷)

 「野球道具の110番」として30年以上、創成館を支えてきた。

 吉井健さん(58)は学校近くでスポーツ用品店を営む。スマートフォンにはしばしば、部員からのSOSが届く。

 よくあるのは「グラブのひもが切れてしまいました」。写真を送ってもらい、材料を持って車で10分弱のグラウンドへ。なるべく早く、その場で直す。

 父が脱サラして始めた店を、高校を出てすぐに手伝うようになった。当時、盛況だったスポーツ業界で若者への風当たりは強く、「売る先もなく、売る物もない」。はじめは父の貯金を崩して食いつないだ。

 野球に打ち込んだのは中学校まで。馬鹿にされることもあったけど、「野球はダメでも、野球道具に詳しくなればいい」。高校生はどんな道具を使っているのかトレンドを探るため、創成館のグラウンドに立ち寄っては練習を眺めるようになった。

 しばらくすると、当時の野球部の指導者から散水用ポンプに使うガソリンがほしいと声をかけられた。最初の「発注」だった。おつかいでも構わない。近くのガソリンスタンドに走った。

 以来、野球道具を買ってもらうようになり、選手たちからはグラブの型付けも任せてもらえるようになった。

 グラブなどのスポーツ用品メーカー「久保田スラッガー」の型付け職人で、「グラブの神様」と称された江頭重利さんからその技術を学んだ。ポジションや選手のくせ、硬さの好みに合わせて仕上げる。

 学生ができあがったグラブを手にはめ、笑顔でこちらを見る瞬間がうれしくてたまらない。

 「『ありがとう』って言われるけど、こっちが『ありがとう』なんですよ」

 コロナ禍以降は、創成館の稙田龍生監督と協力し、4~5月の大型連休中に高校野球の交流試合会「のんのこベースボールフェスタ」を開いている。

 地域活性化のため、学校と店がある長崎県諫早市に泊まってもらうことを条件に、今年は千葉から沖縄まで、合同チームも含めた47チームが参加した。

 「野球人口も、地域も、もっと発展してほしい」。子どもたちが野球に打ち込める環境を裏で支えている。

 創成館は5日の開幕試合で、小松大谷(石川)と対戦。吉井さんは試合の前日にフェリーで関西入りし、練習グラウンドにピッチングマシンを届けた。「苦戦しても負けないのが創成館。感動するもんですよ」。快音を響かせる選手を見つめ、誇らしげに言った。(平田瑛美)