8月5日から第107回全国高等学校野球選手権大会が開幕する。甲子園といえば、注目が集まるのは校歌だ。各校の校歌の歌詞、曲…

8月5日から第107回全国高等学校野球選手権大会が開幕する。甲子園といえば、注目が集まるのは校歌だ。各校の校歌の歌詞、曲調が何かと話題となる。今年は人々の印象に残るような校歌が非常に多い大会となりそうだ。

これまでの校歌は七音、五音を基調とした文語調な歌詞が基本

 甲子園で勝つと校歌が演奏されて、校旗が掲揚。勝利チームがそれをホームベース上で一列に並んで仰ぎ見ている。そして、校歌の演奏と校旗の掲揚が終わるや一目散に、応援スタンドへ向かって走っていく——。

甲子園での勝利校のお馴染みの光景である。これが繰り返されることによって、かつてのPL学園や徳島県の池田、和歌山県の箕島など、甲子園で一時代を築いた学校の校歌は、何度も聞くうちにファンの耳に刷り込まれていった。

 現在は、甲子園での最初の試合では2回の攻撃前にそれぞれの校歌が流されるようになっている。より校歌に親しむ機会も増えている。

 校歌といえば、かつて歌詞は七音、五音を基調としたやや文語調のものが多く、風光明媚を歌い、希望に向かって進む若人の姿を称えるというようなものが主流だった。特に伝統校のそれは、勇ましかったり、かつての寮歌のように韻律を踏むものも多かった。

著名なミュージシャンが現代に即した校歌を作り、これまでの校歌のイメージを一変

 しかし、時代の流れとともに校歌が変化してきている。新しい学校などでは、著名なミュージシャンに作詞や作曲を依頼するというケースも多くなってきている。

 今大会5年連続の11回目の出場を果たしている大分の明豊は同県出身のシンガーソングライターの南こうせつ夫妻の作詞作曲でポップな味わいがある。『明日への旅』というタイトルも付けられている。今の時代に即した感じであり、南こうせつ自身の長年のミュージシャン生活の味わいもあると、人気もある。

 校歌のタイトルということで言えば、高崎健康福祉大高崎(健大高崎)の校歌にも、『BE TOGETHER! みんなだれかを愛していたい』というタイトルが付けられている。<Be Together!  Be Together! Let’s Be Together!>という歌い出しから始まる。作詞はポップスやミュージカルや、NHK「みんなのうた」も何曲か作詞を手掛けている冬杜花代子。そして、作曲は西田敏行が歌ってヒットした『もしもピアノが弾けたなら』の作曲やアニメ作品『母を訪ねて三千里』の音楽監督などでも知られている坂田晃一。NHKの『おしん』や『おんな太閤記』などの音楽監督を務めたこともある音楽家だ。

 群馬県では、大会のシートノックの際にも校歌が流されるので、県内の高校野球好きには、健大高崎の華麗なシートノックと、この校歌がセットとなってイメージされているという人も多くいるようだ。この夏、この少しミュージカル調のこの校歌を何度聞くことができるのだろうか。

 英語で始まる校歌ということで言えば、2年ぶり20回目出場の日大山形も<ボーイズビー アンビシャス ボーイズビー アンビシャス>と繰り返されるところから始まる。もっとも、これは山形県出身で昭和初期から活躍していた詩人神保光太郎の作詞で、「少年よ大志を抱け」という意味で、札幌農学校(北海道大の前身)訪れたクラーク博士の言葉を引用したものと思われる。ただ、その後は<わかものよ高き理想を 限りなきもの 蔵王の姿…>と、七音五音で続いていき、最後は<花咲く学園>と校歌らしくしめられている。山形第一学園が日本大学に合併される前の1960(昭和35)年に制定されたそうで、歴史のある校歌ではあると言えよう。もっとも、当時としてはかなりセンセーショナルに感じられたのではないだろうか。

 なお神保光太郎は『山形市民の歌』など多くの山形県内や埼玉県内の学校の校歌なども多く手掛けている。

 歌詞が話題になった校歌ということで言えば、この夏もっとも最後に甲子園出場を決め、7年ぶり7度目の出場を果たした済美の<やれば出来るは 魔法の合ことば>というフレーズだ。女子校から共学校となり創部3年目の2004(平成16)年春に初出場初優勝。その夏も準優勝を果たしたことで、その校歌も一気に認知された。

正式には学園歌ということで、学校創立100周年を記念して、2001年に作られたもので、作詞は同校国語科教員ということである。ちなみに「やれば出来る」は、学校の校訓でもあり、この言葉が広く普及していくことでインパクトも与えたということである。

ユニークな豊橋中央の校歌だけではなく、伝統校の校歌にも注目

 今大会、最多出場校の激戦地区・愛知大会を制して初出場を果たした豊橋中央の校歌も、ユニークだ。前身の豊橋女子から共学化となった1997(平成9)年を機に制定されたのだが、今風のフォークソング的なポップ調の語り型校歌だ。『星の旅人』というタイトルが付けられていて、歌詞は<あなたに伝えたい そよぐみどりの風 立ち止まればいつも 心のほとりに…>と謳われている。ただ、最後に<豊橋中央高校 マイハート>としめられているところから、「豊橋中央マイハート」とも呼ばれているようである。果たして、この校歌が今大会に、何度甲子園で聞かれるのかも、興味深いところである。

 その一方で北海や仙台育英、県岐阜商、松商学園などの校歌はオーソドックスに七五調である。郷土の風光や特徴を述べていて、若者の意気を伝えるスタンダードな校歌を有する伝統校も、いかにも高校野球で聞く校歌らしくて、いいものだ。<天地を包む 雪の色 その寂寞の 冬去りて>(北海)は、いかにも北の大地を思わせてくれる。<緑滴る金華山 水清冽の長良川>(県岐阜商)も、まさに岐阜城のある岐阜公園と長良川に近い学校の立地の風景の美しさを思い浮かばせてくれるものである。

 <雄々しき連峰指標に聳え 瑠璃なす清流平野に通う 天寵傘下の形勝占めて 健児われらが清水ヶ丘に>という松商学園の校歌は、松商学園の旧制学校のような校舎とともに、風情がある。かつて松本市が舞台の一つとなっていた映画『マノン』(1981年・東陽一監督作品)の中でも、松本市の青年役の佐藤浩市が口にしていたという記憶がある。

 いずれにしても、甲子園という舞台で耳にする校歌。それはまた、格別な味わいがあると言っていいであろう。そうしたことも含めて、高校野球は継承されていく文化の一つであるという認識を改めて抱いている。(文/手束仁)