サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような超マニア…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような超マニアックコラム。今回は、日本や世界の「ゴールのある」風景。

■機能的には問題なし?「変なポスト」

 ゴールポストに息がかかるのではないか―。そう感じたのは、2016年、横浜の日産スタジアムの横にある「しんよこフットボールパーク」で行われた「追加副審」の研修会である(【写真15】)。インストラクターのシャムスル・マイディンさん(シンガポール)の指導下、「追加副審」役でゴールを割ったかどうかを見極めているのは、村上伸次さん(元プロフェッショナルレフェリー)である。私は、この方式はとてもいいと感じたのだが、残念ながら「VAR(ビデオ・アシスタントレフェリー)」を強く推すFIFAの意向で、今では忘れられた存在になってしまった。

【写真16】の奇妙な点に気づかれた読者はいるだろうか。実は、ゴールポストの「角」が普通ではないのだ。通常、こうしたゴールを見ると、斜めにカットした3本の鉄管を溶接でつなぎ、内側を直角につくっている。しかしこのゴールは、1本の長い鉄管に熱をかけて曲げて成型したようなのだ。その結果、直線が90度で交わっているはずの「ポスト角の内側」が、「4分の1円」になってしまっている。しかしご安心を、直径約22センチあるサッカーボールは、この写真程度の「円弧」では影響を受けず、「ゴールとしての機能」には何の問題もないのである。

■「人生初」ゴールと「休み時間」サッカー

【写真17】は、私のノスタルジーである。中学3年から高校3年までボールを蹴った私の母校のサッカーグランドと、そこにあるゴール…。サッカー部に入って半年後の紅白戦で、私は人生初めての得点をこのゴールに決めた。ペナルティーエリアに入ってスポットのやや右でボールを受けた私は、無意識のうちにボールを止め、無意識のうちに右足を振り抜いていた。ボールはGKの肩口を抜け、ネットに突き刺さった。そのときの足の感触、「決まった」と思ったときの何か「達成感」のようなものは、60年近く経た今でもよく覚えている。

 2.44メートル×7.32メートルでなくてもいい。真っ白である必要もない。サッカーはボール1つで世界中の人が楽しめるスポーツだ。高校時代、私たちの「休み時間のサッカー」のゴールは、校舎の中でそこだけ壁の色が違う2つのトイレの壁だった。その2つのトイレは、正対してもいなかった。90度の角度で向き合っていたのだ。

 社会人のクラブチームでプレーするようになってからも、グラウンドが確保できないと、河川敷の草っ原に集まってひたすらミニゲームに興じた。ゴールは誰かのシューズだった。

 2000年にレバノンで開かれたアジアカップを取材した。1975年から15年間も続いた内戦の影響で、首都ベイルートは荒れ果てていたが、瓦礫を取り除いた赤土のグラウンドで若者たちは目を輝かせてボールを追っていた。ゴールはハンドボール用の小さなものだった(【写真18】)。

 カンボジアの首都プノンペンでは、人々は毎日夕刻になると国立競技場の周囲に設けられた何面もの小さなコートに集まり、裸足になってゲームをしていた(【写真19】)。もちろんチーム×チームではなく、集まった人が適当に2組に分かれ、自然発生的にゲームが始まるのだ。そして時間とともに人数が増えていく。歓声は夜が更けるまで続く。

■彼らの「フィールド・オブ・ドリームス」

 2011年にワールドカップ予選で訪れたタジキスタンでは、すごいものを見た。村の少年たちが、閉鎖した工場の空き地を借り、そこを自分たちで整地して、村のサッカー場をつくっていたのだ(【写真20】)。10代の後半と思われる年長の少年たちがまだスコップを使って大きな石を掘り起こしている脇では、待ちかねた年少の子どもたちがボールを追い歓声を上げている。年長の少年たちは、それを笑顔で見ながらスコップを動かす手を休めない。

 ゴールは、そのあたりで拾ってきたポールをつなげただけのもの、形はなしているが、もしシュートが直撃したら軽く吹き飛んでしまうだろう。石ころだらけのグラウンドと吹けば飛ぶようなゴール。しかし、それは間違いなく彼らの「フィールド・オブ・ドリームス」。私は、「世界一のサッカー場」と思った。

 そして【写真21】は、自分が撮った中で最も好きな写真の1枚だ。2013年、ブラジルで開催された「FIFAコンフェデレーションズカップ」の大会中に、レシーフェのボアビアージェン海岸で出合ったシーンだ。父と子だろうか。2人が浜辺の木陰でボールを蹴っている。父がシューター、息子はGK。息子の背後にある2本の木が、2人のゴールだ。

 サッカーは本当に素晴らしい。1個のボールがあれば、「ゴール」はどのようなものでも、「空想」でも組み立てられる。

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