サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような超マニア…
■主審が独断で決める「花吹雪パス」
立川市にあるこのグラウンドは、タッチライン際に大きな桜の木があり、季節には満開の桜が選手たちの心を奪う(【写真08】)。ときどき困るのは、この木が大きくピッチ上まで枝を広げていることである。前線に送ろうとしたロングパスが、盛大に花吹雪を散らしながら、あらぬところに落ちることがある。その場合には、プレーを続けさせるか、相手側のスローインにするか、主審が独断で決めるのである。
サッカーは原則として「全天候型」のスポーツである。雨でも雪でも、選手に危険がないのなら決行する。2000年8月5日、第2ステージ第8節、東京・国立競技場で行われた横浜F・マリノス×鹿島アントラーズは、キックオフ時には気温29.6度で晴れていた。首位鹿島に少しでも詰め寄ろうとする横浜FMは、後半18分に先制を許したものの懸命に追いかけ、10分後にエジミウソンのゴールで追いついて90分を終了する。
しかし、当時のJリーグはそれでは終わらせてくれない。どちらかが点を取った時点で終わる「ゴールデンゴール」方式の延長戦に突入する。その延長前半4分、突然激しい雨が降り始め、さらに大粒の雨になり、雷鳴も聞こえ始めた(【写真09】)。それでも試合は続行し、結局、どちらにもゴールが生まれないまま結局30分間が終了した。3万1056人のファンは、生きた心地がしなかったのではないか。
■雨ニモ負ケズ「泥んこにならなくて」
【写真10】は、八王子市内のグラウンドで撮影したもの。前日からの雨で、グラウンドにはあちこちに水たまりができ、軟弱になって、結局この日の試合は中止になった。「泥んこにならなくてよかったね」と、相手チームの高校生たちは帰っていった。
雨もあれば風もある。【写真11】は、埼玉県の河川敷グラウンドでの試合。風速20メートル級の春の暴風に襲われ、小石交じりの猛烈な土ぼこりが次々とグラウンドを駆け抜けていく。空は晴れているのに、奇妙な日だった。街中では「少し風が強いな」ぐらいの日にも、河川敷のグラウンドは、遮るものがないだけでなく、風の通り道にもなるため、時に大変なことになる。
■風ニモ負ケズ「重しは少年用ゴール」
「風」で感心したのが、試合で相手チームのコーチが見せた「応急対策」(【写真12】)。ネットにかかる風圧は意外に強く、背後から風を受けると、重心がほぼゴールポストに近いところにあるゴールはピッチ内、すなわちGKの頭上に倒れやすい。そこで、ある強風の日、グラウンドに備え付けの「重し」だけでは足りないとみた相手チームのコーチは、少年用のゴールを運んでこさせると、それを「重し」にした。非常に感心した。
風もあれば、霧もある。菅平高原(長野県)での大会は、濃霧に襲われた(【写真13】。ゴール裏からは、ハーフラインの選手たちもはっきり見えない。私が主催者なら、選手の安全のために中止にするが、ピッチの中ではなんとか見えるのだろうか。平気な顔で試合を続けた。ときおり、霧の中からいきなり相手チーム選手が現れ、シュートを放ったが、冷静に対処するのには驚いた。
【写真14】は雪に覆われた人工芝のグラウンド。しかし降雪量がわずかだったこともあって、太陽が昇るとアッという間に融け、何ごともなかったように試合ができた。