英国で「サッカーを国民の手に取り戻す」ことを目的とした法案が可決された。莫大な収益をもたらすプレミアリーグ他、ビッグビ…
英国で「サッカーを国民の手に取り戻す」ことを目的とした法案が可決された。莫大な収益をもたらすプレミアリーグ他、ビッグビジネスとして扱われることが多いサッカーに、「健全性」を与えようというものだ。サッカージャーナリスト大住良之は、この動きを「革命」と考える。
■「直接的な貢献」を納得するのか
もしかしたら、今回の新法でプレミアリーグが最後まで抵抗しそうなのが、収益の分配に関する条項(第56条~第62条)かもしれない。プレミアリーグは、その収益の一部をEFLに分配しなければならないという規定である。年俸の高騰抑制による下部クラブの間接的な財政安定に貢献するだけでなく、プレミアリーグはEFLのクラブを助けるための補助金という直接的な貢献も求められているのだ。
IFRが最初の「報告書」を提出するのは、2026年末から2027年1月とみられている。当然ながら、この法案に反対してきたプレミアリーグがどのような対応をするのか、注目して見ていきたいが、サッカーをこの国の不可欠な文化ととらえ、一部のビッグクラブだけでなく小さな町の小さなクラブもそれぞれの地域生活の必要な要素であることを、英国議会が「超党派」で認めたことに大きな意味がある。
■「重要な方向性」を見失っている?
私は、イングランドという国の人々は、入場券の高騰などに戸惑いながらもプレミアリーグの繁栄を喜び、「世界最高峰のリーグ」と自他ともに認めることを、ただただ誇りに思っているのではないかと考えていた。しかし、サッカーという文化を真剣に考え、サッカーを一部の投資家などから自分たちの手に取り戻そうという人々もいることを知って、大いに力づけられる思いがした。
この新法がきちん実施に移されれば、間違いなくイングランド・サッカーの「革命」となる。財政面で膨張する一方だったプレミアリーグは、大きな岐路に立たされていると言える。
Jリーグは欧州のトップリーグに追いつくべく、ビジネスを広げ、クラブが欧州に対抗できる財力をつけることを求めている。しかし、そうした中、ファン、サポーターを重要な仲間とし、「サッカーという文化」をもっともっと広め、深めるという重要な方向性を見失っているのではないかと感じるときが少なくない。
■精神において「ファンたちのもの」
今回の立法の立役者と言っていいジェイソン・ストックウッドは、7月13日付けの『The Guardan』紙に以下のようなコメントを寄せている。
「これまでサッカーは、その周囲の社会、その価値観、不平等、成功と失敗を常に反映してきました。しかし他の産業とは違い、サッカーには類いまれな感情的な側面があります。世代と世代を結びつけ、アイデンティティを築きます。サッカーは、少なくともその精神において、ファンやサポーターたちのものです。私たちが求めているのは昔に戻ることではありません。すべてのクラブオーナー、経営者に、社会への責任感を持って取り組んでほしいということなのです。これからやるべきことはたくさんありますが、『独立サッカー規制機関(IFR)』が実現段階に達したということは、サッカーにおいても、そして政治の面においても、変化は可能であることを力強く示しています」