サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような超マニア…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような超マニアックコラム。今回は、日本や世界の「ゴールのある」風景。

■Jリーグ1年目に記録した「ゴール」越え

 暑い。とんでもなく暑い。こんな中で、読者もグデグデと書かれた長文を読む気はしないだろう。そこで今回は特別企画、「フォトエッセイ」。サッカーのゴールをめぐる21枚の写真である。

 ゴールは、その内側の空間において「縦2.44メートル、横7.32メートル」と決まっている。縦横比は正確に「1:3」である。「母国」英国で使われている「ヤード・ポンド法」では、「縦8フィート、横8ヤード」。すなわち1ヤードは3フィートという豆知識が得られるというわけである。

 シュートを打ってもなかなかこの枠内に飛ばず、たまに飛んでもキーパーに楽々と取られてしまう。しかし、ゴール前に立ってみると、意外に大きい。男子チームのGKならばジャンプすればバーに手が届くだろうが、ヘディングしようとしてバーに頭をぶつけてしまう選手は、ほとんどいない。

 ところが、陸上競技のハイジャンプ(走り高跳び)の世界記録は2メートル45センチ。幅12センチのバーは越えられないが、「サッカーゴール」という空間はギリギリ越えるのである。この記録の保持者はキューバのハビエル・ソトマイヨール。1993年の7月27日、Jリーグの1年目、「第2ステージ・ニコスシリーズ」の第1節と第2節の間に記録した。

 ワールドカップでもJリーグでも、ゴール内からの跳ね返りを防止するために、ゴールポストには後方の支柱を使わず、ピッチに埋め込む方式のものでなければならないことになっている。ところが世界のプロサッカー選手会を統べる「FIFPro」と国際サッカー連盟(FIFA)の最近最大の対立ポイントとなった「FIFAクラブ・ワールドカップ(FCWC)」では、支柱のある「据え置き式」が使われた。

 ところが、グラウンド面から垂直に立つ支柱だけは外してあった。そこで強度を保つために「下面」のゴールライン上を除く3方を太いパイプでつなぎ、さらにその内側にゴールラインから2メートルほどのところにもう1本、太いパイプを渡していた、大会の初期にその2本目のパイプに頭をぶつけて痛がっていた選手がいたが、大丈夫だったのだろうか。

 ところが大会の後半には、この2本目のパイプが消えた。さすがハイテク王国アメリカ。短時間で、埋め込み式にしたのかと思いきや、ゴール前のシーンがアップになると、その「正体」がばれた。なんと、2本目のパイプから後ろの部分を濃い緑のペンキで塗っただけだったのである。

■同じゴールラインに「2個」並んだゴール

 さて、【写真02】は、ドイツのヴォルフスブルクの「フォルクスワーゲン・アレーナ」の南側のゴールである。現代のゴールは、ゴールポストを「埋め込み式」にし、ネットは後方のゴール外にポールを立てて引っぱるという形になっている。

 撮影は2023年9月8日。この翌日、日本代表はこのスタジアムでドイツ代表と対戦し、2-1のリードで迎えた後半の終盤、久保建英の素晴らしいプレーから浅野拓磨と田中碧のゴールで4-1の圧勝を飾ることになる。ドイツ代表監督ハンジ・フリックを解任に追い込んだ2つの得点が決まったのが、このゴールだった。

【写真03】は異常である。同じゴールラインにゴールが2個並んでいる。実は、向こう側のゴールは試合前のGK練習用で、ゴール前の芝生が荒れるのを防ぐために、最近使うスタジアムが増えてきている。当然、練習が終わったら取り外すので、支柱のついた「据え置き式」である。ただGK練習でこのゴールを使うかどうかはチームの自由なので、まったく使わず、本来のゴールだけで練習するチームもある。そのGKが、正面に来たグラウンダーのシュートをイレギュラーでつかみそこない、失点してしまうのを見るのは楽しい。

■「埋め込み」「コロコロ」「折り畳み」式も!

「埋め込み式」はトップクラスの競技用。通常は、練習場も、多くの競技場でも、「据え置き式」で行う。Jリーグのクラブの練習を見に行くと、ゴールを運ぶのはコーチやスタッフの仕事のようだが、【写真04】を見よ、プロ以外は、基本的に選手たちがゴールを運び、設置するのである。ときには、そこにネットを持ってきて張る仕事も必要になる。だがチームワークとは、こうした仕事を力を合わせてすることで、生まれるものだと、私は考えている。

 外国でよく見られるのが、少人数(1人か2人)で運べるゴールである。軽い素材でできているわけではない。重さは100キロ近くになるだろう。しかしゴールの底面に車輪がついていて、ハンドルでゴールを浮かせ、コロコロと運んでいくのである【写真05】。この写真のゴールの車輪はゴールとの角度が固定されているため、運搬には2人が必要だが、一段階上げて車輪が自由な角度を取れるようにし、1人で運べるゴールを見たことがある。

【写真06】はもっと簡便なもの。ゴールを支える「台形」の部分がちょうつがいで内側に折り曲げられるようになっており、畳めばホイホイと2人で運ぶことができる。本格的なゲームに使うのは難しいかもしれないが、「ミニゲーム」なら問題ない。このゴールは、1998年のフランス・ワールドカップに初出場した日本代表が大会中滞在して毎日の練習を行った「エクスレバン」のグラウンドにあったものだ。

【写真07】も「折り畳み式」である。川崎の等々力競技場に行く途中、多摩川に「丸子橋」という大きな橋がかかっているが、その橋から下を見ると、少年サッカーの試合の真っ最中だった。そのゴールは、よく見ると、強化プラスチック製のような軽い素材を組み合わせたもので、少年チームのコーチがバンの荷台に載せてきてホイホイと組み立てた様子が目にうかんだ。

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