ある者は子供のときからのあこがれ、ある者は己の力の挑戦-。今年もドラフト会議の季節がやってきた。BIG6.TV では学生野球の聖地とも言える神宮球場で、4年間にわたる激闘を繰り広げてきた東京六大学野球の強者たちの中から、プロ志望届を提出した…

ある者は子供のときからのあこがれ、ある者は己の力の挑戦-。
今年もドラフト会議の季節がやってきた。BIG6.TV では学生野球の聖地とも言える神宮球場で、4年間にわたる激闘を繰り広げてきた東京六大学野球の強者たちの中から、プロ志望届を提出した選手にスポットを当ててその想いに迫る。第5回は法大・長谷川裕也投手。自身を「表に出ていけるような選手じゃなかった」と語るように、アンダースロー転向をはじめ、幾度となく壁を乗り越えてきた右腕が現在の心境を明かした(成績はすべて10月23日現在)。

◎プロ志望届を提出した思い
「(プロは)野球人である以上目指していくべきところ」

夢を夢のままで終わらせない。プロ野球の世界を自分が目指すべき高みだと、力強く語る長谷川。4年春にようやく初勝利を挙げると、勢いそのままに3勝、防御率もリーグ3位(2.52)と好成績を残してブレイクした。遅咲き右腕のプロ志望届を提出したいまの心境はいかに。
「4年生春のシーズンが終わってから、スカウトの方が法政の試合を見に来て下さる機会が増えて、少しでもアピールできるようにと意識しました。青木(久典)監督とも今後の進路をどうするかという話をしたときに、『プロという選択肢もあるぞ』と言ってもらった。プロは野球人である以上、目指すべきところだと思っています。僕自身も挑戦したいという気持ちがあり、志望届を出しました」

選手としての転機は高校2年生(埼玉・聖望学園)の冬。監督の薦めがきっかけで、それまでのオーバースローからアンダースローへ、投球フォームを一新。そして、素質は開花し始めた。
「もともと高校に入ったときから、監督に『ヒジの位置が低いから、サイドスローを試したらどうだ』って言われていました。速い球を投げたいという意識があったので、最初は断ってオーバースローを続けた。でも、周囲にはすごいピッチャーがたくさんいて、横に変えようと決心したのがスタート。ピッチング練習やキャッチボールをする中で、遊び心の延長で試したアンダースローが意外にしっくり来たので、このままやろうと。参考にしていたのは、渡辺俊介さん(=現新日鐵住金かずさマジックコーチ兼投手)。YouTubeの動画を見たりしました。足の上げ方とか、基本的な部分は、そこから学んだんです」

決して順風満帆ではなかった。法大入学後2年間で公式戦登板はゼロ。指定校推薦で入学後は主力の第一寮ではなく、控え選手がメインの第二合宿所で過ごした。甲子園で名を馳せて、鳴り物入りで入部した選手とは対照的な大学野球生活を送ってきた。
「自分は表に出ていけるような選手じゃありませんでした。ずっと陰に潜んで練習していて、試合に出ることも少なかった。正直に言うと、モチベーションもそんなに上がってこないんですよね。その中でも、冬場の投げ込みとか練習は意欲的にやっていた。はっきりとは分からないですが、そこを監督が汲んでくれて、紅白戦や練習試合の出場機会を与えてくれたのかなと思います。そうなると意欲も沸いてくる。チャンスも掴めるようになって、ようやく神宮のマウンドに立てるようになったんです」

◎4年間挑み続けた神宮の舞台とは
「自分の未熟さを知り、自分自身を模索したマウンドだった」

練習試合で結果を残し、3年春の慶應2回戦で神宮初登板にして初先発。しかし、本塁打を浴びるなど5回途中4失点で降板。苦い記憶となったが、長谷川は「あの試合のおかげでいまの自分がある」と、しみじみと話した。自身を知る良い経験になったことはたしかだ。
「慶應戦のことは、この4年間で一番印象に残っています。抑えたい、速い球を投げたい。格好良く三振を取りたいと、普段は絶対に出さない欲が出て、いつものプレーができませんでした。自分の未熟さを思い知る試合になった。その後の課題は“いかに自分のピッチング”をするか。”自分に合った投球術を探すか”。神宮のマウンドで結果を出すにどうすれば良いのか。それをずっと考えながら投げていました。例えば、バッターとの間合いを大切にしています。タイミングの取り方を見て、投げるギリギリ、ボールを離す瞬間までバッターを見ている。そのときに『ちょっと早めに構えてきているな』と感じたときは直球をちょっと抜いてみる。『後ろに体重が乗っているな』と思ったら、スピンを効かせて詰まらせたりする。バッターに自分の打撃をさせないピッチングができると楽しいですよね」

これまでの3年間とは異なった心境で迎えるドラフトの日。あこがれだったプロ野球が、今は手を伸ばせば届くところまできている-。
「3年生までは自分にとってプロは本当に無縁の世界でした。1年生のときに石田さん(健大、現・横浜)がドラフトで指名されて、『すごいな、いいな』と思ったくらいだったんですよね。それがいまの自分がこういう立場に置かれていると思うと、やっぱり緊張します。プロ野球をテレビで見ていて、『この球も打たれるのか。そんなに良いバッターがいるんだな』と思っていた世界に、わずかかもしれないですけど行けるチャンスがあるので挑戦したい。大学4年間で周囲の皆さんからときには厳しい言葉もかけられましたが、それがあったから成長もできた。これからも経験を糧に自分自身の野球人生を充実させていきたいです」

■プロフィール
長谷川裕也(はせがわ・ゆうや)1995年12月10日生まれ。右投右打。184㎝75㎏。聖望学園(埼玉)。リーグ戦通算15試合登板3勝3敗39奪三振、防御率5.77。アンダースローから繰り出す変幻自在のピッチングスタイルを武器に、今春は自己最多7試合に登板して3勝をマークするなど一気にブレークした。