― アスリートと医療者に必要なアンチドーピングの意識 ― スポーツの世界では、競技パフォーマンスだけでなく「フェアプレー…

― アスリートと医療者に必要なアンチドーピングの意識 ―

 スポーツの世界では、競技パフォーマンスだけでなく「フェアプレー」の精神が重視されます。

その象徴ともいえるのが、アンチドーピング(Anti-doping)の取り組みです。

ドーピングというと、「悪意を持って薬物を使う選手」のイメージを持たれるかもしれません。
しかし実際には、無自覚にドーピング違反になってしまう“うっかりドーピング”が非常に多いのです。

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【ドーピングとは?】

WADA(世界アンチ・ドーピング機構)が定めるドーピング違反行為は、禁止物質の使用・保持・隠蔽・不正取得など様々ありますが、最も多いのが以下の2点です:

1.禁止物質を意図せず摂取してしまう(例:市販薬、処方薬)
2.TUE(治療使用特例)を提出していなかった

つまり、「薬を飲んだこと自体が違反」になる可能性があるのです。

【禁止物質はどこに潜んでいる?】

・市販の風邪薬や鼻炎薬(含フェニレフリン・プソイドエフェドリン)
・アレルギー薬・咳止め・鎮痛薬
・筋肉増強作用のある漢方やサプリメント
・医師が処方するステロイド、ホルモン製剤、注射薬

中には「医師に処方されて安心していたが、実は禁止物質だった」という例もあります。
そのため、医療者側の知識と意識が極めて重要です。

【TUE(治療使用特例)とは?】

競技者が健康上の理由で禁止物質を使用しなければならない場合、WADAやJADA(日本アンチ・ドーピング機構)に申請する制度です。

例)喘息に対する吸入β刺激薬、低身長に対する成長ホルモン、炎症性疾患へのステロイド注射 など

・TUE申請がないまま使用=ドーピング違反
・申請書には医師の診断書と医学的根拠が必要

しかし、TUE制度自体を知らない医師も少なくなく、正しい診療のつもりが選手生命を脅かす事態にもなりかねません。

【アスリートの診療における“配慮”とは?】

スポーツ選手にとって、薬や注射は単なる「治療」ではなく、「競技人生に影響する選択肢」です。
だからこそ、以下のような姿勢が求められます:

・「この薬は競技に影響があるか?」という視点を常に持つ
・「競技の時期」「大会エントリー状況」「登録競技団体」を確認
・禁止物質でなければいい、ではなく「グレーな成分にも慎重になる」
・医師から選手へ「禁止物質に該当しないことの説明責任」を果たす

アンチドーピングは選手だけの問題ではなく、医療側の責任も大きく問われる時代です。
「知らなかった」「普通の薬だと思った」では、選手の努力がすべて無になる可能性もあります。

[文:池尻大橋せらクリニック院長 世良 泰]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

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池尻大橋せらクリニック院長・世良 泰(せら やすし)

慶應義塾大学医学部卒。初期研修後、市中病院にて内科、整形外科の診療や地域の運動療法指導などを行う。スポーツ医学の臨床、教育、研究を行いながら、プロスポーツや高校大学、社会人スポーツチームのチームドクターおよび競技団体の医事委員として活動。運動やスポーツ医学を通じて、老若男女多くの人々が健康で豊かな生活が送れるように、診療だけでなくスポーツ医学に関するコンサルティングや施設の医療体制整備など幅広く活動している。