(28日、第107回全国高校野球選手権東東京大会決勝 関東第一7―1岩倉) いったんは見えた28年ぶりの甲子園への切符は…
(28日、第107回全国高校野球選手権東東京大会決勝 関東第一7―1岩倉)
いったんは見えた28年ぶりの甲子園への切符は、そのまま手にすることはできなかった。
二回表1死、岩倉のエース上原慶大(3年)にこの日初打席が回ってきた。チームで狙いを定めていたカーブを捉え、中越えの三塁打に。後続の適時打で本塁を踏み、ベンチやスタンドの声援に応えた。
だが高校野球は、点を取った直後が「鬼門」とされる。そのジンクスを裏付けるような出来事が起きたのは三回裏。相次ぐ守備の乱れなどで瞬く間に2死二、三塁のピンチに追い込まれた。
マウンドの上原が相対した打者は、「対戦を楽しみにしていた相手」という、中学で同じ野球チームだった関東第一の入山正也(同)。この日絶好調の上原はスライダーを中心に内角の直球を巧みに混ぜていた。マウンドに駆け寄った捕手に、初球を伝えた。「ストレートで」
前打者を抑えた直球で、気持ちで押していこうと選んだが甘く入り、逆転の適時打に。「さすが関東第一の打者だった」
昨夏、先発した二松学舎大付との初戦で延長十回タイブレークの末、敗れた。試合直後、三回途中で降板した自分を責めて号泣する上原に先輩が声をかけた。「お前のせいじゃない。来年、頑張って甲子園に行け」
そこからは死にもの狂いで練習した。体重は8キロ増やし、投球フォームもプロ野球選手の動画などを参考にワインドアップに修正。球速は増し、変化球の良さを生かすための直球に磨きをかけた。
昨秋に「10」だった背番号は、今大会で「1」に。自分には完投する力がないので、全員でつないで勝ちたい――。投手陣に伝えた。「みんながエースだから」
この日は四回に連打を浴び、1死一、二塁で佐藤海翔(2年)にボールを託した。試合をつくれなかった悔しさはあったが、攻守交代の時は真っ先にグラウンドへ飛び出してナインを迎え、ベンチからは身を乗り出して仲間へ向け声を出した。
最後まで望みを捨てなかったが、優勝に届かなかった。泣き崩れる佐藤に涙をこらえて言った。「お前のせいじゃない。来年、頑張って甲子園に行け」。今大会、チーム最多の27回2/3を投げて22の三振を奪った「エース」は、その先を後輩に託した。=神宮(武田遼)