英国で「サッカーを国民の手に取り戻す」ことを目的とした法案が可決された。莫大な収益をもたらすプレミアリーグ他、ビッグビ…
英国で「サッカーを国民の手に取り戻す」ことを目的とした法案が可決された。莫大な収益をもたらすプレミアリーグ他、ビッグビジネスとして扱われることが多いサッカーに、「健全性」を与えようというものだ。サッカージャーナリスト大住良之は、この動きを「革命」と考える。
■ようやく日の目を見た「法案」
静かに、そして着実に、「革命」は始まっている。
7月8日に英国の国会(下院)で「サッカー・ガバナンス法案(Football Governance Bill)」が可決された。賛成415票、反対98票。現在の英国は労働党の政権だが、対立する保守党の多くの議員も賛成票を投じた。圧倒的な支持を得て可決された法案は、7月21日の国王裁可を受けて正式に法律となった。過去に保守党を含む2代の政権が提案し、そのつど時間切れなどで先送りになってきたのだが、ようやく日の目を見たのである。
この法律の目的は、プロサッカークラブの財政を健全で持続可能なものとし、とくに下部クラブの財政回復力を保護し、イングランド・サッカーの伝統を守ることにある。そして英国の文化に深く根ざしたサッカーを、国民の手に戻そうというというのである。
テレビ放映権による巨額の収入だけでなく、海外オーナーの投資により、20のプレミアリーグ・クラブだけは毎年大きな収益を挙げている。しかし、ビジネスを拡大するためにクラブカラーを変える、強引にスタジアムを移転するなど、ファンを無視した「横暴」とまで言える行為が後を絶たない。
■わずか2日後に「不参加」表明
何よりファンが危機感を持ったのは、2021年の「欧州スーパーリーグ」構想だった。欧州のビッグクラブが集まって新リーグをつくろうという構想だったが、イングランドからも6つのクラブ、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティ、リバプール、チェルシー、アーセナル、トットナム・ホットスパーの参加も予定されていた。
国際サッカー連盟(FIFA)を筆頭に、その参加の全6地域の地域連盟も反対の意思を示したが、何よりも強いリアクションはファンの間から起こった。「参加予定外」のクラブのファンだけでなく、「参加予定クラブ」のファンからも、「利益ばかり追求する」と猛烈な批判が起こり、イングランドの6クラブは発表からわずか2日後に「不参加」を表明せざるをえなかった。
現在、イングランドの全国規模のリーグには、プレミアリーグ(20クラブ)を筆頭に、「5部」に当たる「ナショナル・リーグ」まで全116クラブが在籍している。「2部」は「EFLチャンピオンシップ」、「3部」は「EFLリーグ1」、「4部」は「EFLリーグ2」で、プレミアリーグ以外はそれぞれ24クラブで構成されている。
今回の法律は、この「5部」までの116クラブを対象としている。大半が「イングランド」の圏内だが、ウェールズのクラブもいくつかある。その結果、今回成立した法律の対象は「イングランドおよびウェールズ」の「5部」までのクラブとなった。
■クラブの「健全性」を守る新法
法律の骨子は以下のとおりである。
・「独立サッカー規制機関(IFR)」を設置する。
・IFRは主にクラブの財務状況を調査した「協議状況報告書」を法案成立後18か月以内に公表し、以後は5年ごとに公表する。
・IFRは5部までのリーグに加盟するクラブに「ライセンス」を発行する。審査基準を満たさないクラブは、満たすまでライセンスを取り消される。
・「禁止大会」への参加を禁じる。(「禁止大会」とは、欧州スーパーリーグを想定している)
・文化遺産の保護。オーナーがスタジアムを債務の担保として使用することを制限する。スタジアム移転にあたっては、サポーターと協議する必要がある。
・プレミアリーグはEFL(2部以下)と収益分配の協議をする。合意に至らない場合にはIFRが介入する。
・ファンの関与。クラブは、クラブの運営戦略、事業、チケット価格、ホームスタジアム、クラブエンブレム、ホームユニフォームの色、クラブ名などに関し、ファンの意見を考慮に入れなければならない。