(第107回全国高校野球選手権石川大会決勝 小松大谷8―7金沢=延長十回タイブレーク) 同点に追いつかれた直後の九回裏…

 (第107回全国高校野球選手権石川大会決勝 小松大谷8―7金沢=延長十回タイブレーク)

 同点に追いつかれた直後の九回裏の攻撃。金沢の寺下十座選手(3年)は「何でもいいから打線に火をつけよう」と、先頭打者として苦しんでいた変化球をたたき、左前打で出塁。だが、サヨナラの一打にはつながらなかった。

 決勝は序盤につなぎの打撃で6点を積み重ね優位に進めたが、四回以降は相手投手の巧みな投球に対応できず、終盤まで無得点。「相手に配球パターンを変えられ、緩い球で打ち取られていた」と振り返る。

 昨年元日。寮生活の金沢から能登町の実家に戻り、震災に遭った。津波で実家は浸水し、1週間近く避難生活を送った。寮に帰るのをためらった時、父裕二さん(47)に「お前のやるべきことは、金沢で野球することじゃなかったんか」と背中を押された。

 チームに戻ったが、昨夏の県大会はベンチ外になり苦しい時期を過ごした。そんな中で一つ上の先輩、斎藤大翔遊撃手(昨秋のプロ野球ドラフト会議で西武から1位指名)を見ながら、守りを磨いた。元々、バントのうまい2番打者だったが、今夏は好打の3番打者に育ち、チームの攻守の要になった。「自分がアウトになっても前後に頼れる打者がたくさんいるので、自信持って戦えた」

 名前の「十座」には「縦横のつながり」を意味する十と、周りに人がたくさん集まる人物になるよう願いが込められている。県大会3季連続決勝進出の好結果を残したチームで、試合後は仲間に囲まれ笑顔を絶やさない。

 小学6年の弟も震災の影響で人口が減った能登で野球に励んでいる。「いい報告ができず残念な気持ちがあるが、仲間全員とやりきったので悔いはない」(土井良典)