(27日、第107回全国高校野球選手権埼玉大会決勝 叡明5―2昌平) 2点を追いかける八回。昌平の桜井ユウヤ選手(3年)…

(27日、第107回全国高校野球選手権埼玉大会決勝 叡明5―2昌平)

 2点を追いかける八回。昌平の桜井ユウヤ選手(3年)は、四球を選んだ。「1年前なら『待て』の指示が出ても打っていた」。それでも一度もバットを振らなかったのは、心から仲間を信じていたから。

 昨年も4番打者として決勝戦に挑んだが、夢の舞台には届かなかった。勝ちたい。自分の代で、今年こそ甲子園へ行きたい。打撃、守備、チームのまとめ役もすべて、主将で主砲の自分がこなさなければ。

 そう強く思うほど、裏目に出た。

 昨秋の県大会では3回戦の九回、外野フライに打ち取られて最後の打者に。今春の県大会は1安打もできず、チームは無得点で1回戦負けした。自分の一振りで試合を決めようと思うあまり、打たなくても良い球まで手を出していた。

 「自分ひとりで野球をしていた」

 そう、気づかせてくれたのは周りの存在だ。

 栃木県から片道2時間以上かけて週に何度も、寮に手作り弁当などを差し入れてくれた母リンダさん。「下を向いているときに顔を上げてくれた」。そして、「みんなで頑張れないやつは試合でも勝てない」と面と向かって言ってくれた仲間。

 ひとりじゃないから、仲間を頼れる主将になろう。つなげば、誰かが本塁へかえしてくれる。

 決勝戦の九回、2死一、三塁。打席に立つ諏江武尊選手(3年)を打席から呼び、笑顔で話しかけた。「俺がいるから、打ってこいよ」

 打席は回らず、高校野球人生が終わった。「武尊でだめなら、俺も打てなかった」。最後の「プレー」は仲間を信じて、背を押すことだった。(折井茉瑚)