7月末の支配下登録も期限が近づいております。12球団は補強を進めていますが、あと1、2枠の中で多くの育成選手が支配下登録…

7月末の支配下登録も期限が近づいております。12球団は補強を進めていますが、あと1、2枠の中で多くの育成選手が支配下登録を争っています。

 ロッテの3年目左腕・吉川 悠斗投手(浦和麗明)もその1人。ロッテの支配下登録数は69名。あと1人の枠を争っています。

 吉川投手の高校時代を振り返ると、浦和麗明の3年生となった22年、ドラフト戦線に急浮上した本格派左腕です。3年夏に一試合20奪三振を達成し、「埼玉のドクターK」と呼ばれ、育成枠で入団した吉川投手は、プロ入り3年間で大きく成長を遂げ、支配下を狙える選手となりました。

 そんな吉川投手は中学時代、全くの無名選手でした。

勝負の夏の大会で20奪三振を記録し、スカウトたちにアピール

  吉川美南ボーイズ出身の吉川投手は中学時代、5番手で強豪校に誘われるような投手ではありませんでした。浦和麗明の入学のきっかけについてこう語っています。

「当時から良いチームでしたが、超強豪校というわけではなかったので、野球が上手くない自分にとって良いチームでした。強豪校だったらやっていません。

 人工芝の専用グラウンドなど設備的にもいいですし、偏差値的にも自分と近いものがあったので決めました。当時は3年間、野球をやり通せばいいなと思っていました」

 進学志向だった吉川投手は難関国公立大などを目指す特選コースで入学します。プロについては考えていませんでした。それでも体作りを進めて、自分なりにフォーム、変化球を研究しながら、適切にレベルアップできる吸収力の高さがありました。

 じわじわと実力を伸ばしていき、1年秋にはベンチ入りを果たし、2年秋には185センチの長身から130キロ後半の速球を投げる左腕として注目を浴びる存在になります。

 そして3年春には県大会初戦で15奪三振。さらに最速141キロをマークするまでに。当時の埼玉には、左腕のドラフト候補が少なかったというのもあり、関東地区のスカウトでは人気となっていました。

 最後の夏ではさらに快投を見せます。夏初登板となった2回戦の秩父農工科学戦で、20奪三振を記録します。角度のある140キロ前半の速球に加え、大きく落ちるチェンジアップ、スライダーで三振を奪いました。この日は多数のスカウトが詰めかけており、大きなアピールとなりました。

「調子はよかったです。自分が投げる最初の試合でしてたので、最初から調子を上げていこうと思っていました。最初から打たれるとチームの雰囲気も下がると思うので、できるだけ抑えて帰れるように投げていました。三振については狙っていました」

 4回戦敗退となりましたが、最後の夏にアピールした吉川投手はプロ志望届提出を決断します。ドラフト前にぜひピッチングを見たいと思い、インタビュー取材に加え、投球映像も

撮影することになりました。間近で見る吉川投手のチェンジアップの落差は強烈なものがありました。

ロッテ3年間も順調に成長中

吉川悠斗(浦和麗明)

球速がそれなりにあって、打者の手元で鋭く落ちて、間近で見るチェンジアップは映像以上のものを感じました。多くのドラフト候補の投手を撮影してきましたが、チェンジアップの精度は吉川投手がNO.1だったと思います。そして185センチの長身から繰り出すストレートは角度があり、将来性豊かな投手だと感じました。ブルペン投球を終えて吉川投手は「変化球のコントロールを意識してやっていました。腕の振りやバランスがまだバラバラだと思っているので、これから直していきたいです」と課題を口にしました。体重も夏時点の75キロから80キロまで増量し、しっかりと体作りをしてきたのが伺えました。

 3年間、見守ってきた佐藤隼人監督は素質に加え、努力を続けられる人間性を高く買っていました。また、学業成績も高く、飲み込みの早さも魅力。育成ありの高卒プロ志望を認めたのもその一面があったからだと思います。

 ロッテから育成1位指名を受けた吉川投手は1年目は二軍で1試合、2年目は二軍で16試合で防御率3.38とステップアップ。3年目の今年は二軍で先発登板機会が増えました。

 ここまで11試合のうち、7試合に先発して5勝2敗、防御率4.04、49回を投げ、44奪三振と三振が奪える先発左腕へ成長しました。

 直近では7月26日のDeNA戦に先発。この日はメジャーからDeNAに復帰した藤浪 晋太郎投手が初登板。ライブ配信も行われ、大きな注目度の中で、先発しました。DeNAはビシエド選手、度会 隆輝外野手(横浜)、筒香 嘉智外野手(横浜)など一軍経験の打者が並ぶ中、5回、85球、3奪三振、無失点の快投を見せました。まだ上半身、下半身の連動がなく、力のないストレートや、抜けた変化球も見られますが、高校時代と比べると見違えるように体つきがたくましくなり、安定して140キロ中盤を計測し、最速147キロを計測。アベレージの球速が大きく高まりました。しっかりとフォームが連動した時のチェンジアップは高確率で三振を奪えています。

 プロの世界で順調に成長し続けるのは難しく、昨年、トライアウトの取材をした時、高校時代からあまり球速が伸びていない投手や、総合力が物足りない投手が見られました。そんな中、吉川投手は地道ながらじっくりと実力を伸ばしていて嬉しい気持ちになりました。

 今季のロッテは単独最下位。CSも厳しい状況で、来季へ向けての若手選手の投資も必要な時期に入っています。吉川投手は最後の一枠に入れる可能性を示しました。もし叶わなくても、来季は一気に一軍で飛躍する可能性を今シーズンは見せています。

 ロッテは右の速球派が次々と出ていますが、若手の左投手は少ない現状です。ここまでの3年間のように地道に実力を伸ばし、いつかは一軍のローテーションを長く務められる投手になることを期待しています。