(25日、第107回全国高校野球選手権埼玉大会準決勝 叡明12―8山村学園) あと1歩で甲子園を逃した兄の雪辱。監督から…

(25日、第107回全国高校野球選手権埼玉大会準決勝 叡明12―8山村学園)

 あと1歩で甲子園を逃した兄の雪辱。監督からの期待と信頼。ベンチに入れなかった同級生。山村学園の横田蒼和(そうわ)投手(3年)にとって、たくさんの思いを抱えて立った準決勝の舞台だった。

 6年前、埼玉大会の決勝戦。同じ山村学園のユニホームで敗れた兄の背を追いかけた。「絶対に自分が甲子園に出て、借りを返す」

 1年生からレギュラー入り。準決勝で苦杯をなめた昨年を経て、今年は背中にエースナンバーと、右腕に赤いキャプテンマーク。今大会2本塁打を放ち、攻守の要だ。

 山村学園はベンチに投手を多く抱えるが、この日は横田投手が完投した。「蒼和で負けるなら仕方ない」と岡野泰崇監督が絶大な信頼を置くからこその、采配だった。

 最終回の攻撃。一回から169球を一人で投げた横田投手に打席が回る。スタンドからは自分の名を呼ぶ大きな声援。頭に浮かぶのはメンバーを外れても腐らずついてきてくれた仲間。「みんなの分まで必ず打つ」

 粘った8球目、バットを振った。三塁に打球が転がる。

 間に合え!

 両手をめいっぱい伸ばして一塁に滑り込んだが、アウト。しばらく顔を上げられなかった。

 試合のあと、後輩の前では笑顔をみせた。「絶対甲子園に行ってくれ」。次の代に思いを託し、球場を去った。(折井茉瑚)