全国でスタジアム34件、アリーナ45件の新設、建て替え計画が進行している(2025年1月時点)。持続可能なスタジアム・…
全国でスタジアム34件、アリーナ45件の新設、建て替え計画が進行している(2025年1月時点)。持続可能なスタジアム・アリーナのあり方とは。中京大スポーツ科学部の舟橋弘晃准教授(スポーツ経済学)に聞いた。
――全国各地でアリーナやスタジアムの新設、改修計画が持ち上がっています。
「この背景には、2013年に日本政策投資銀行が提唱した『スマート・ベニュー』という概念が大きく関係しています。同行の調査では、全国600弱のスポーツ施設のうち約9割が収益性の低いコストセンターでした」
「実態を踏まえ、スタジアム・アリーナを周辺のエリアマネジメントを含む複合的な機能を有するサステイナブル(持続可能)な交流拠点と位置づける『スマート・ベニュー』が提唱されました。このコンセプトは政府の成長戦略にも影響を与え、スポーツの成長産業化が掲げられる中で、地方自治体や民間事業者の間で改革の機運が高まっています」
――赤字は許されないと。
「一概にそうとは言えません。スポーツ振興という公益性の高いサービスのために公的経費を投じることは必要です。問題は、計画が不十分で生じる赤字です。特にスタジアムは国民体育大会(現・国民スポーツ大会)の開催を理由に、行政が拙速に建設することが多かった。しかし、大会後の活用策の検討が不十分であり、結果的に維持・管理費が重荷になるということが全国各地で繰り返されてきました」
――国スポのあり方が再検討されています。
「イベントをきっかけに施設をつくるとなると、『納期』が定まるので実現性は高まります。ただし、長期的な維持・管理、活用計画の熟度を高めることとはトレードオフの関係になってしまう。『国スポのための施設をつくる』から『国スポを活用して本来、地域に必要だった施設をつくる』への転換が必要です」
――民間が建設し、民間が運営する「民設民営」のアリーナが増えています。
「Bリーグの『B.革新』構想でアリーナの整備基準が明確化され、ファン目線の設計や運営の自由度の高さから民設民営へのチャレンジが増えています。プロスポーツのホームゲームは年間30試合程度のため、定常開催するホームゲーム以外の収益をどのように確保するかが勝負になります」
「今後、音楽興行などのイベント誘致競争が過熱する可能性があります。単に多目的化するだけでなく、興行主から『選ばれる施設』になる必要があります。オープン1、2年目は『お祝儀需要』で稼働率が高くなりがちですが、3年目以降の安定した収益確保が真の実力を測る指標となるでしょう」
――安定的な運営に必要なことは。
「稼働率の向上と収益源の多様化が重要です。稼働率が高まれば施設や設備の命名権(ネーミングライツ)やVIPルームなどホスピタリティー施設の価値も向上し、収益の幅が広がります。契約に基づき長期的に入ってくる固定収入、COI(contractually obligated income)をどれだけつくり出せるかが運営を安定させる鍵となります」
「次に柔軟性です。施設は出来たらゴールではなく、完成してからがスタートです。アリーナを取り巻く地域や社会の課題、そして新たな技術の活用可能性は今後も大きく変化します。そのため、時代やニーズの変化に対応できるよう、可変性や拡張性をあらかじめ確保しておくことが大切です」
「あとは行政とうまくやることです。民設民営であっても土地の提供や税制面の優遇、連動した周辺開発など行政が全く関わっていないケースはまずありません。官民でしっかりと連携して、一体となったプロジェクトだという座組みをつくることが大切です」
「そのためには、チームや施設が地域住民にその価値を十分に理解され、愛される存在になることが不可欠です。そして、その価値を具体的に可視化し、共有していくことが求められます」(構成・金子智彦)