米殿堂入りを果たしたイチロー氏。日米両球界で異彩を放った天才の凄みを物語るエピソードが明るみになった(C)Getty I…

米殿堂入りを果たしたイチロー氏。日米両球界で異彩を放った天才の凄みを物語るエピソードが明るみになった(C)Getty Images

 日本の天才ヒッターが「伝説」として球史に刻まれる瞬間が間近に迫っている。来る7月27日、マリナーズで会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチロー氏の殿堂入り表彰式典が行われる。

【動画】イチローが激怒! 韓国代表がWBCで見せた国旗立てシーン

 今年1月に歴史は築かれた。MLB通算3089安打を放った稀代の安打製造機は、惜しくも満票選出は逃したが、有資格1年目で得票率は99.7%のアベレージを獲得。多士済々のメジャーでありながら圧倒的な支持を得て、日本人としてはじめ米殿堂入りを果たした。

 現役時代に日米通算4367安打をはじめ、いまだ破られぬ年間262安打など、ありとあらゆる功績を球史に刻んできた。そんなイチロー氏が残してきた記録、そして記憶は多くの関係者に焼き付いている。新たに偉才ぶりを証言したのは、2004年にマリナーズで打撃コーチを務めていたポール・モリター氏だ。

 自身も現役時代に通算3319安打を記録し、米殿堂入りも果たしているレジェンドは、MLB公式ネット局『MLB Network』の番組「MLB Now」に出演。指導者として接したイチロー氏との記憶を回想した。

 当時のチーム状況などを含めて「全体的にはあまりうまくいかなかった」と振り返ったモリター氏は、「イチローを指導したのは私にとって貴重な経験だった」と告白。就任初年度に大記録となる年間262安打を放つ孤高の天才に対して行った“要求”を明かしている。

「春季キャンプのことだった。私は球団の人間からイチローに『アプローチの仕方を少し変えるように言ってもらえないか』と言われていた。別に彼が何かを劇的に変える必要があったわけではない。でも、もっと球を見て、出塁率を上げてほしいという意図があってね」

 その後、イチローはモリター氏の要求に呼応。「最初の2週間ぐらいは私の提案したやり方を試してくれた」という。しかし、打撃の調子が上がらないと見るや、モリター氏はたまらず切り出したという。

「調子が出なくなった時に言ったんだ。『すまない。私が春季キャンプで話したことは全部忘れてくれ。いつもの君に戻ってくれ』って。そしたら、イチローは3か月で50本以上のヒットを打ち出したんだ。そして、最終的にシーズン記録の262本も叩き出したんだ」

 自身も優れたヒットメーカーだったモリター氏は、「イチローは特別ボールの見極めが優れていたとは思わない」と断言。その上で「ボールへの対応力がずば抜けていた。どんな形でもバットにボールを当てることができて、彼はスペース見るタイプの選手だった」と独特な表現で、イチロー氏の異能を評している。

 当時は「ステロイド時代」と揶揄されたほどに米球界はパワーが重視されていた。そんな時代に卓越した技術力と天性の才覚で勝負したイチロー氏の活躍は、色褪せはしない。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

【関連記事】「今年はイチローを目指したいんだ」――異次元ペースで打つジャッジが米局で“安打製造機化”を明言 年間58発ペースなのになぜ?

【関連記事】米球界で変わるイチロー氏のミカタ 米記者がNPB時代の伝説の7年を再評価「我々は日本での全盛期を忘れている」

【関連記事】イチローの殿堂入りで起きた“疑惑の1票” ヤ軍主将ジーターは投票の公平性を訴え「正直、うんざりしているところはある」