「雑誌とかに”株が急上昇”とか書いてあったりするのですが、そんなにハードルを上げられても&#…

「雑誌とかに”株が急上昇”とか書いてあったりするのですが、そんなにハードルを上げられても……って思っていますから」

“ドラフト1位確実”と見る周囲の評価に、「一番驚いているのは僕です」といった感じで、立命館大の左腕エース・東克樹(あづま・かつき)は苦笑いを浮かべた。

「大学進学を考えていたときも、立命館なら学校としてもしっかりしていて就職に困らないだろうし、試合にも出られるかなと思って決めたんです。4年後にプロなんて、頭の片隅にもありませんでした」



大学時代、ノーヒット・ノーランを2度達成した立命館大の東克樹

 その男が田嶋大樹(JR東日本)と並び、今年のドラフトで投手陣の看板として注目を集めている。

 10月9日の関西大戦では11球団、40人近いスカウトがネット裏に陣取った。マメを潰して7回途中2失点で敗れたが、多くの球団がドラフト前の最終確認を終えた。

「小さいときは牛乳を飲んで、鉄棒にぶら下がったり、いろいろやりましたけど、遺伝子には勝てませんでした」

 そう語る姿は、まさにどこにでもいそうな普通の好青年。大学の体育会で野球をやっていて、ましてやドラフト1位候補だとは想像もつかない。

「今でも友だちの友だちとかには野球をやっていると思われないですし、ピッチャーとは絶対に思われないですね。大体、セカンドか外野手って言われます」

 愛工大名電高時代は、2年春・夏、3年夏と甲子園に出場。2年のときは登板がなく、3年のときも初戦で敗れている。好投手であったことは間違いないが、大学4年間でここまで成長した理由を聞くと、まず体の変化を挙げた。

「体重が高校3年のときから10キロぐらい増えて、今は77キロ。これでボールに力がついたというのはあると思います」

 そしてもうひとつ、左ヒジ痛により登板できなかった2年秋をポイントに挙げた。

「治療やトレーニングによってヒジの不安がなくなったのもそうですけど、下半身を徹底して鍛える時間をつくれたことが大きかった。土台がしっかりしたことでストレートの球速はもちろん。質も上がったと思います」

 それまで最速146キロだったストレートは、152キロにまで達した。持ち味のストレートは速さに加え、独特の球筋も大きな武器だ。身長170センチの小柄な体を仰向け気味に三塁側に倒しながら腕を振るためリリースポイントが高く、2010年に甲子園で春夏連覇を達成した興南高校のエース・島袋洋奨(現・ソフトバンク)を彷彿とさせる。

 東も「言われてみれば……」と頷いたが、何より重なるのがストレートの角度だ。腕を真上から振り下ろし、左打者の内角に入ってくる”逆クロス”が素晴らしい。右打者のアウトコース、左打者のインコースにボールを制球できることは、今後の活躍を占う上で大きなポイントになる。この東の持ち味について、後藤昇監督が説明する。

「普通の投手より、東は開き気味にステップしてくる分、逆の(クロスの)角度もある。ただ、以前は左投手特有のクロス(右打者のインコースに入ってくる球)がもうひとつでした。それで、ステップを少し内側に入れて、ボールをできるだけ前で離してクロスの球筋が出るようにやってみたんです。すると、その意識が強すぎて、手だけで引っ張ろうとするからヒジを痛めてしまって……。だから、一からトレーニングをやり直したんです。そうしたら3年になって、クロスに強い球がいくようになって、今年はスライダーのキレもよくなった。横の幅を広く使えるようになったことが大きかった。上(プロ)でもやれるイメージが私のなかにも広がりました」

 変化球はスライダーと、本人がいま一番自信を持っているというチェンジアップ、そしてカーブ。2年秋を境に、ストレート、変化球の精度が上がり、少年時代から苦労したことがないというコントロールに磨きがかかった。東自身も制球力については自信を持つ。

「身長のおかげですかね。全体的にコンパクトな分、バランスが取りやすく、体が扱いやすいですから。ある程度、投げたいところに投げられる自信はあります」

 少年時代から憧れてきた石川雅規(ヤクルト)や、同学年で「刺激を受けている」と話す田口麗斗(巨人)の投球に、「やはりプロでもコントロール」の思いを強くしたという。とはいえ、不安がないわけではない。

「僕もコントロールがいいと言われていますが、どこまでプロで通じるかはわからないので……。投げてみてからです」

 これまでもプロへの抱負を聞いたときなどは、一貫して慎重な発言を続けてきた。その理由として、ふたりの先輩が大きく影響している。

 ひとりは、愛工大名電の1年先輩である濱田達郎(中日)。高校時には藤浪晋太郎(阪神)や大谷翔平(日本ハム)らと”BIG3”と並び称され、中日にドラフト1位で入団した逸材だ。しかし、プロ入り後は故障に悩まされ、今季から育成契約となった。

 もうひとりは、立命館大の2年先輩で巨人から1位指名を受けて入団した桜井俊貴だ。こちらも大学時代は絶対的エースとして君臨していたが、入団してから2年間はプロの壁に苦しんでいる。

「すごさを知っているだけに、あれだけの人たちでもこれだけ苦労するんだと。リアルに厳しい世界だということをホントに感じています。そういうのもあって、自分も上でやりたい気持ちがあっても、なかなか自信を持てませんでした」

 これだけの高評価を受けた今でも、まだ自信を持てずにいるのか聞くと、「今も全然ないです」と言い、こう続けた。

「プロに入ると、絶対に挫折が待っているはず。そこでどう立ち直るかですよね。元々、自信家じゃないんですけど、プロで絶対に成功するというイメージを持っていて、そうならなかったら立ち直れないと思います(笑)。だから、うまくいかないことを頭に置きながらやっていかないとダメだと思っています」

 あらためて、プロに入ってからの抱負を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「まず一軍に入って、中継ぎからかもしれないですけど、どこかで先発で投げられたらいいなと思っています」

 言葉を並べると随分と控えめなように感じるが、表情は明るい。後藤監督は東の性格について、こう語る。

「真面目ではありますけど、遊び心もある。それに僕らともしっかり会話をできますし、バランスの取れた性格です。そういうところがピッチングにも出ていて、相手を見ながら投げることができる。この先、生きていくための大きな長所になると思います」

 謙虚な150キロ左腕を指名する球団はどこなのか。運命の日は刻一刻と迫っている。