(23日、第107回全国高校野球選手権東東京大会準々決勝、岩倉6―2帝京) 試合後、神宮球場に流れる岩倉の校歌を聞きなが…
(23日、第107回全国高校野球選手権東東京大会準々決勝、岩倉6―2帝京)
試合後、神宮球場に流れる岩倉の校歌を聞きながら、帝京のエース、村松秀心(3年)は目を閉じた。監督、コーチ、親、チームメート……。お世話になった人たちの顔が次々と思い浮かんでくる。「何もできなかった。自分が、チームを負けさせてしまった。本当にごめん」。熱くなった目頭を、そっと押さえた。
五回まで0―3と苦しい展開だった。出番に備えて、いつもより早めに肩をつくっていた。
1点をかえした直後の七回表からマウンドへ。「打たれちゃいけない場面」と集中した。だが、1死二塁から連打で2点を失い、八回にはソロ本塁打。差は5点に広がった。ブルペンの調子は良く、ボールも悪くなかった。ただ、打たれた球はシュート気味の失投。「試合の中で修正できなかったのは、自分の実力不足。結果を出せなかった」
悔しかった。でも、「グラウンドで一番高い位置にいる自分が悔しさを出しちゃったら、伝染する」。気持ちを切り替え、淡々と投げ続けた。
帝京の背番号「1」。伝統と、歴史と。その重みを背負い、ここまでやってきた。「帝京のエースは、ピンチの時に抑えないといけない。どんな場面でも、ゼロに抑えないと」。この日は3回3失点。3番打者としても、4打数無安打に終わり、十分に力を発揮できなかった。それでも、「帝京のエース」を最後までやりきった。
試合後、崩れ落ちる選手たちが見えた。この大会にかける、みんなの強い気持ちを思うと、申し訳なく、自分が情けなく思えた。
春1度、夏2度の甲子園優勝を誇る強豪も、2011年夏を最後に甲子園から遠ざかる。昨夏は決勝、今夏は準々決勝で敗れた。名将・前田三夫前監督の後を受け継いで21年秋からチームを率いる金田優哉監督は「もがいて、もがいて。今年こそ、こじあけたかった」と悔しさをにじませた。
村松の甲子園の夢はこの日、ついえた。「壁を越えるために練習をしてきたけど、越えられなかった。甲子園は遠いとは言いたくないけど、やっぱり遠かった」=神宮(野田枝里子)