全国高校総体(インターハイ=読売新聞社共催)が23日、中国地方5県を中心に8月20日までの日程で開幕する。苦難を抱えな…
全国高校総体(インターハイ=読売新聞社共催)が23日、中国地方5県を中心に8月20日までの日程で開幕する。苦難を抱えながらも、大会に挑む選手たちの熱い思いをリポートする。
鎖国の時代に外国に門戸を開いた長崎県。6月1日、平戸市の海に臨む高台の相撲場に、県大会の優勝校を告げる放送が響いた。
「長崎鶴洋高校!」
出場3校が総あたりした相撲・団体戦(5人制)で、28連覇中の諫早農業を白星一つ差で退け、42年ぶりの優勝がアナウンスされた瞬間だった。「ワーッ」とどよめきがわき起こった。部員7人はタオルで目元をぬぐい、抱擁した。
歓喜の輪にいたエゴール・チュグン選手(3年)は1年生の秋、ウクライナから来日し、相撲部の門をたたいた留学生だ。1メートル87、170キロの体格を生かして押し出しで2戦全勝し、優勝に貢献した。
幼少期に南部ミコライウ州の故郷で相撲を始め、動画サイトで見た大相撲の貴景勝にあこがれた。14歳の頃、ロシアの侵略が始まり、ミサイル攻撃におびえる日々が続いた。「18歳になれば兵役義務で出国できなくなる。今のうちに日本に来ては」。九州に避難していた相撲の先輩の紹介で2023年10月に来日、長崎鶴洋(長崎市)に転入した。
チームが薄氷ながら歴史的な優勝をたぐり寄せたのは、チュグンに加え、中学相撲の経験者の西山瑛太、高橋 一旦という最高学年の3選手が1年生の頃から切磋琢磨して強くなったことが大きい。高橋修監督(36)は「優勝するなら今年しかないと思ってきた」と語る。3人は県大会の2試合でチームが挙げた六つの白星のうち、五つをもぎ取った。
爆発力のある西山選手(1メートル72、120キロ)は佐賀、俊敏でしぶとい高橋選手(1メートル67、78キロ)は大分の出身。どこの相撲部も部員確保に苦労する中、県外に人脈を張る高橋監督がスカウトした。
チュグン選手は大柄だが、うまくはなかった。12歳で母国代表として参加した国際的な少年大会「白鵬杯」(東京・両国国技館)では、小柄なモンゴル選手に手玉に取られた。長崎で西山選手らにもまれ、ウクライナ流で投げ技に頼る癖を修正。押し出しを得意技にした。高橋選手は「日頃から(体重差92キロの)エゴールと練習しているので、試合で相手を軽く感じるようになった」と話す。
寝食を共にする寮生活も団結力を養った。言葉、風呂、食事。異なる文化のウクライナ人留学生を部員が支えた。「最初はしんどかったけど、みんなのおかげで頑張り続けられた」とチュグン選手。口に合わなかった白米に慣れ、納豆は好物になった。会話に自動翻訳アプリはもう不要だ。祖国の母親への連絡を毎日欠かさない姿に、周囲は「戦災から逃れてきたエゴールは背負っているものが違う」(西山選手)と発奮した。
44校が出場する高校総体はモンゴル出身者ら並み居る強豪が顔をそろえる。チュグン選手は「恩返しのためにも、良い結果を出したい」と意気込む。目標は大きく8強。狙うは、大番狂わせの再現だ。