電話越しに長男が「パパ泣いたの初めて見たよ」と試合の感想を伝えてきた。プロボクサーの村田諒太(帝拳)は10月22日にWBA世界ミドル級タイトルマッチを制し、念願のチャンピオンベルトを手に入れた。勝利が決まった瞬間、リング上で目頭が熱くなるの…
電話越しに長男が「パパ泣いたの初めて見たよ」と試合の感想を伝えてきた。プロボクサーの村田諒太(帝拳)は10月22日にWBA世界ミドル級タイトルマッチを制し、念願のチャンピオンベルトを手に入れた。勝利が決まった瞬間、リング上で目頭が熱くなるのは自然のことだった。
東京・両国国技館に集まった8500人の大観衆は7回終了後のインターバル中に起こった展開に沸いた。村田の対戦相手で5月にWBA世界ミドル級王座を獲得していたアッサン・エンダム(フランス)がギブアップしたのだ。村田の7回TKO勝利が決まった。その瞬間、日本ボクシング界では1995年の竹原慎二氏以来となる世界ミドル級チャンピオン、そして日本人史上初となる五輪金メダリストによる世界チャンピオンが誕生する。
決戦から一夜明けて村田は改めて心境を語った。額の右側が少しだけ赤く腫れているが、おだやかな表情で「昨日は夢じゃなければいいなと思っていましたが、今こうやって(メディアの)皆さんが来てくれたり、朝からテレビ出演があったり、ああ夢じゃないんだなって思っているところです」と喜びを噛みしめながら試合を振り返る。
「自然と(リングアナウンサーの)ジミー・レノンさんのアナウンスに対して、リング上で盛り上がりながら拍手している自分がいたり、やっぱり昨日の舞台は嬉しかったですね」
一夜明け会見を行う村田諒太《撮影:五味渕秀行》
試合前に帝拳の本田明彦会長が「相手を飲んでいくつもりで行け。こんなレベルに負けないという気持ちで行け」と鼓舞し、村田も「自分の方が絶対強い」という信念を持ってチャンピオンに挑んだ。結果、1回からエンダムを圧倒して雪辱を果たした。
「仮に(7回終了時点で試合が)ストップしなかったとしても僕はチャージを弱めるつもりはなかったので、耐久戦になっていてもいずれストップはできたと思いますが、(勝利が決まった)あの瞬間は嬉しかったです」
WBA世界ミドル級こそ制したが、海外ではゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)やサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)など猛者がしのぎを削っている。村田は海の向こうの強豪とやりあいたい気持ちは持ちつつも、「まだ海外では村田諒太って誰だよ、というレベルの立ち位置だと思っています。カネロやゴロフキンとやりたいと言っても『誰だよお前は?』と言われるレベル。着実に自分の価値を海外で上げていくことが、まずするべきことなのかな」と今後を見据える。
そんな村田が今一番やりたいことはマッサージ。8月は持久力強化のトレーニングキャンプ、9月に入ってスパーリングなど実戦中心で決戦の日まで突っ走ってきた。ベルトを手に入れたところで一息つきたいところだ。
「今の自分にあげたいご褒美は?」と問うと、「ジャンクなものが食べたいですね。減量で塩分など控えめにしていたので。モツ煮とか、塩分と脂身のあるものが食べたい。塩っ辛いものを食べて、次の日に顔がむくんだなとか言いながら布団を出たいですね」と笑う。
TKO勝利が決まり涙を見せる《撮影:五味渕秀行》
子煩悩で知られ、二児の父でもある村田。試合後に6歳の長男と電話で話し「パパやったねー!」という言葉を期待していたが、聞こえたのは「パパ泣いたの初めて見たよ」だった。一番ベルトを見せたかった長男の言葉に苦笑いを隠せないが、試合を理解こそしていなくても、ちゃんと観てくれている子どもの存在は何よりも力になった。チャンピオンになってからの初仕事は、3歳の長女を保育園にお迎えにいくことだ。
トップ・オブ・トップとの対戦ができる日まで一歩一歩、目の前の試合を積み重ねていくという村田。来年1月には32歳を迎え、現役は「長くてあと4年」と考えている。使える時間は有限だが、その中で村田はさらなる飛躍を目指す。
WBA世界ミドル級タイトルマッチ アッサン・エンダム vs 村田諒太(2017年10月22日)撮影:五味渕秀行
村田諒太がWBA世界ミドル級新チャンピオンに(2017年10月22日)撮影:五味渕秀行
村田諒太がWBA世界ミドル級新チャンピオンに(2017年10月22日)撮影:五味渕秀行
WBA世界ミドル級新チャンピオンの村田諒太(2017年10月23日)撮影:五味渕秀行