今年の四国を代表する左腕といえば、侍ジャパンU‐18代表候補・明徳義塾の最速141キロ・池﨑 安侍朗投手(3年)と、NP…
今年の四国を代表する左腕といえば、侍ジャパンU‐18代表候補・明徳義塾の最速141キロ・池﨑 安侍朗投手(3年)と、NPBスカウトからも注目度が高まっている西条の最速143キロ・宇佐美 球児投手(3年)の二人。しかし、この彼らを球速で超える左腕が徳島県のわずか選手13人の小規模校野球部に存在する。
その男の名は瀧上 春斗投手(たきがみ・しゅんと)。身長175センチ・体重70キロと決して大柄ではない。チームの戦績も昨秋、今春の県大会で2回戦どまり。しかし、50メートル走6秒0という突出した身体能力を持ち、現在の最速は6月に出した144キロ。池﨑や宇佐美をしのぐ「四国最速左腕」の座を占めている。
そんな瀧上はここまでの球歴も異色そのもの。神山町立神領小学校1年時に神山ルーキーズ(軟式)に入団。普段は箸も右手で使いながら、野球では右利きがしっくり来ず、途中からサウスポーへ。監督から左利き用のキャッチャーミットを譲り受け、捕手兼投手という二刀流を張っていた。
神山中でも小学生時代と同じ立ち位置で軟式野球を続け、投手としては最速128キロを計測した。当初は高校で野球を続けようか、というより高校進学自体を思案していた瀧上。だが「野球をしたい」とその意気を自ら丸刈りにして受験した穴吹に拾われる形で、高校野球の世界に足を踏み入れることとなった。とはいえ最初は投手でなく、外野手で試合出場を続けていた。
そんな中で迎えた高校2年の6月、徳島県で県高校総体時期に開催される「総体協賛ブロック大会」でのアクシデントが自身の人生を大きく変える。当時のエースがケガしたことで「自分が投げるしかない」(瀧上・以下同)状況となったマウンドで三者連続三振を奪い「投手が面白いのでこれからもやっていこうと思えた」と、これまで潜んでいた能力が一気に開花させた。
「選手個々の特長をみたトレーニングをしてくれる」と瀧上も語る32歳の青年監督・石井 大輝監督の熱心かつバリエーションあふれる指導もあり、新チームに入るとストレート球速は130キロ後半に。冬場には現在、松茂町議職の傍ら、巡回コーチとして徳島県内投手陣の育成に携わる元・広島東洋カープ右腕の川端 順氏から、投手としての所作を学び、かつ下半身・体重移動を中心としたトレーニングを続けたことで、今春の県大会ではついに140キロを突破した。
春以降は「NPBスカウトの皆さんに見て頂けたことで、もっと頑張ったらプロにいけると思えるようになった」と、高卒ドラフト指名へ向けて、さらに成長度を加速させている。変化球も落差の大きいスプリットをはじめ、スライダー、チェンジアップを扱う器用さも兼ね備え、いよいよ最後の夏へ挑む。
穴吹は徳島大会初戦で、最速143キロ右腕で俊足という瀧上と同タイプの藤倉 和人がエースの城東、2回戦では春の県大会王者、今大会第2シードで春に苦杯をなめた徳島商が待ち受ける極めて厳しいブロックに入った。が、「城東戦ではランナーを出さないように、徳島商戦では春の反省を踏まえて対策を立てて抑えていきたい」と意気込む瀧上がいまだ開かれていない能力の引き出しを開けたならば……。
穴吹入学後、ずっと神山町から最寄り駅まで1時間近く送り迎えをしてくれる両親にも報いたい。「僕には野球しかない」という覚悟と魅力をむつみスタジアムのマウンドで発揮する瞬間は、もうすぐそこに迫っている。