橋本のスタイルは中国勢にとっても脅威となっている(C)Getty Images 7月13日までアメリカ・ラスベガスで行わ…

橋本のスタイルは中国勢にとっても脅威となっている(C)Getty Images

 7月13日までアメリカ・ラスベガスで行われた卓球 USスマッシュの女子シングルス3回戦で、世界ランキング23位の橋本帆乃香が、同4位の王芸迪(中国)をストレートで破る大番狂わせがあった。橋本は2019年世界選手権の女子ダブルスで銅メダルを獲得したこともある実力者で、年齢も27とベテランの域に達しており、決してノーマークの新人というわけではない。

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 大番狂わせの要因の1つに橋本の「カットマン」という独特のプレースタイルがある。現代卓球では、ボールに激しい前進回転をかけて軌道を下に曲げることで、速いボールを安全に打ち込む「ドライブ」を中心とするプレースタイルが主流だが、橋本はまったく逆に、ボールに後退回転をかける「カット」を中心とするスタイル。あえて高く遅いボールを送って相手に攻撃をさせ、1球ごとに毎秒100回転からゼロ回転まで回転量の変化をつけることでミスを誘うという特殊なスタイルだ。卓球台から距離をとって何本でも返し続けるので、相手はリスクを冒せない。かといって安全に行き過ぎれば強烈な逆襲を食らう。そのために必要かつ十分なだけの攻撃力を備えているのがカットマンなのだ。

 橋本はカットマンの定石通りに、カットの回転量で王のミスを誘い、要所で逆襲して試合を有利に運んだ。最後のラリーでも、王が打ちあぐんで甘くなったボールに対して矢のように前に飛び込んでバックハンドを一閃して大金星を挙げた。

 しかし次の相手が悪かった。橋本の準々決勝の相手は“大魔王”伊藤美誠。伊藤はカット攻略を得意とし、カットマンにはほとんど負けたことがないというこれまた特殊事情を持つ選手。カットの回転量を見極めて正確無比のスマッシュを連続して叩き込み、大金星を挙げた勇者を屠ってしまった。伊藤も5月の世界選手権で王を破って銅メダルを獲ったとはいえ、王にはそれまで7連敗している。橋本の代わりに王が上がってきたら厳しい勝負になっただろう。これも複雑多様な卓球ならではの勝負の世界である。

 伊藤は準決勝で、中国からマカオに移住した元世界ランキング1位の朱雨玲と対戦。果敢に責め立てたが、30歳の朱の巧みな球さばきに2-4で敗れた。朱は今大会、世界ランキング2位の王曼昱(中国)を倒して勝ち上がってきており、決勝でも、世界ランキング1位の孫穎莎(中国)、早田ひなを倒して勝ち上がって来た陳熠(中国)を破って優勝してしまった。

 結果、女子シングルスのベスト8は、中国3、日本3、韓国1、マカオ1となり、中国と日本が拮抗する形となったが、その順位においてまだまだ中国がリードしている状況だ。今回、ベスト16に終わった張本美和、大藤沙月にも奮起を期待したい。

[文:伊藤条太(卓球コラムニスト)]

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