(13日、第107回全国高校野球選手権奈良大会2回戦 橿原3―0奈良商工) この日、奈良商工の主将で捕手の門前幸大(3…
(13日、第107回全国高校野球選手権奈良大会2回戦 橿原3―0奈良商工)
この日、奈良商工の主将で捕手の門前幸大(3年)には決めていたことがあった。「公式戦の初戦は硬くなる。一つのミスで暗い顔をしたらチームに影響する。だから、笑顔でいよう」
死球、死球、内野安打、死球。グラウンド整備直後の六回表、それまで好投していた2年生エース萩原泰誠の制球が大きく乱れた。
それでも門前は「ストレートはまだ走っている。これで三振を取れば流れを変えられる」と落ち着いていた。
タイムを取り、マウンドへ笑顔で駆けつけると、右手を萩原の肩に置き、「良い球やから、俺のミットだけ見て投げてこい」と伝えた。直後に犠牲フライで追加点を奪われるも、ヒットは許さない。最後を空振り三振に打ち取ると、門前は「しゃー」と雄たけびをあげた。
入学直後の公式戦から捕手として出場すると、その夏の大会からは4番を務めた。チームの大黒柱として、監督からも選手からも絶大の信頼を寄せられていた。
そんな主将の打席が最後に回ってきたのは九回裏1死一塁。ベンチからの声も、演奏のボルテージも一段と上がる。「絶対つなぐ」と心に決めるも、打球はショートゴロに。ヘッドスライディングで併殺を防ぐと、またしてもベンチに笑顔を向けた。
続く打者が中飛に倒れ、試合は終了。整列では「最後までやるぞ」と声をかけ、泣き崩れる萩原に対しては「悔しいな。来年もまだあるさ」と励ました。
「最後の打席で『お前ならいけるぞ』という声がずっと聞こえてきた。それがうれしかった」。そう話して笑顔で球場を後にした。(周毅愷)