現在、韓国を舞台に開催されているE―1選手権。男女それぞれ4か国が東アジア王者を懸けて争うこの大会は国際Aマッチ期間外…

 現在、韓国を舞台に開催されているE―1選手権。男女それぞれ4か国が東アジア王者を懸けて争うこの大会は国際Aマッチ期間外のため、国内組が中心のメンバーとなっている。森保ジャパンも26人全員がJリーグ所属選手。初戦の時点で代表初招集の選手が14人いたため、それぞれのJクラブやそのサポーターにとって、特別な大会となっている。

 前回大会のE―1選手権での活躍をきっかけにカタールワールドカップ出場への道を切り開いた相馬勇紀町野修斗らの例もあるだけに、国内クラブ所属選手にとって世界を狙う格好の場に。18歳でチーム最年少の佐藤龍之介が「爪痕ではなく、結果を残したい」と言い切るほどに、全選手がやる気にみなぎっている。
 日本から世界へ――。大きな夢が詰まった大会直前の7月5日に開催されたJ1リーグ戦は、同3日に代表メンバーが発表されたこともあって各地で白熱した試合を見せた。その中でも特に盛り上がりを見せたのが、川崎フロンターレがU等々力に鹿島アントラーズを迎えた一戦である。
 昨季まで川崎を率いていた鹿島・鬼木達監督の凱旋試合だった。生え抜きのDF高井幸大をプレミアリーグ・トッテナムに送り出すための節目の試合でもある。ただ、それ以外の熱気も強かった。お笑い芸人を巻き込んでの壮大なプロモーションが大成功に終わったのだ。有名人や芸能人をサッカー会場に呼ぶこと自体はどのクラブでもできるが、それだけで終わらないのはこの川崎フロンターレというクラブである。事前のプロモーションは凝りに凝っていて、幾重にもネタが仕掛けられていた。クラブ関係者によれば、来場者や取材メディアから、「なんで今日は、ザ・マミィさんなんですか?」という声がなかったほどに、試合当日には両者の関係性が浸透していた。
 今回それを実現した、“サッカーの試合”をピッチ内外で面白くしたいというクラブのアイデンティティと、若きスタッフの奮闘に迫った。そこには、Jクラブの可能性が秘められていた――。

■“逆乗っかり”で訪れたチャンス

 7月5日のJ1リーグ第23節の鹿島アントラーズ戦は、クラブの伝統的な献血推進イベント「噂のケンケツSHOW」が予定されていた。川崎市、神奈川県赤十字血液センターとの三者主催で行われるこのイベントでは、「笑いで血行促進!!」をテーマにお笑い芸人を呼ぶことが通例となっており、今年は、12人が来場した。
 キングオブコント2021で準優勝していたザ・マミィはその中の2人ではあったが、昨年の時点ですでに「オファーを出そう」という空気が社内にできていたという。きっかけは、昨年10月に開催された「カワハロ」の通称で知られている川崎フロンターレのハロウィンイベントにあった。選手が大胆な仮装に挑戦する、サッカークラブとは思えぬこの企画で、移籍してきたばかりの河原創がザ・マミィの酒井貴士に扮した。河原が酒井に似ている、というコメントがSNSで広がったことにクラブは目をつけて、“素材”を生かす形で、トライしたのだ。
 すると、それにザ・マミィも共鳴。相方の林田洋平がクラブオフィシャルショップに駆け付けてユニフォームを購入し、酒井に着用させて“逆仮装”をしてみせたのだ。
「これはいける!」
 フロンターレのフットボール事業統括部プロモーション部イベントグループに所属する北森達也は、確信を得た。その高揚感に押され、気づけば社内でオファーの話を通していた。

■ゼロからの出演交渉

 実際にオファーを出したのは、今年の春に入ってからだ。いざその時が来て、北森はお問い合わせフォームのボタンを押して、企画を送った。
 川崎フロンターレというビッグクラブがお問い合わせフォームを通して依頼するのは意外かもしれないが、ここにもフロンターレらしさが詰まっている。
「最初、人力舎さん(ザ・マミィの所属事務所)とつながりがなかったんです」と北森は振り返るが、通常、縁がなければそこで諦めてしまう人も多いはずだ。しかも、オファーの根拠は「2人が似ている」の一点だけである。しかし、ザ・マミィの“逆乗っかり”に「面白くなる!」と自信があったからこそ、ゼロベースから交渉した。
 そして、事務所側との打ち合わせに足を運び、すぐに具体的な話を進めていったという。
 かつてはイベント担当もしていたフットボール事業統括部プロモーション部広報グループの森澤諒大も、体当たり交渉についてこう言葉を足す。
「つながりがあればそこからのパターンもありますけど、今回みたいにつながりがない場合は、お問い合わせフォームという完全にゼロから、”なんとか、一回会わせてください”ってところから入って、一回お会いできれば、その場で直接、熱量や思いをぶつけるっていう“当たって砕けろ精神”でやってるところが大きいですね」
 そうした熱量が、イベントより前に実施された幾重ものプロモーションに現れた。そして、「2人が似てるっていうことがきっかけではありますけど、ただのモノマネで終わらせたくなかった」と森澤が熱弁するように、2人のアイデアがさまざまに花開いていく――。
(取材・文/中地拓也)
【「その2」に続く】

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