(12日、第107回全国高校野球選手権奈良大会1回戦 香芝4―1県立商) 「集中しているな」。2点のリードを許した八回…

 (12日、第107回全国高校野球選手権奈良大会1回戦 香芝4―1県立商)

 「集中しているな」。2点のリードを許した八回表2死一塁。ボールパーソンを務めた県立商の女子選手、今阪萌華(3年)は、打席に入った4番打者の中川行汰(3年)を見てそう思った。声をかけることはできない。ベンチ横のパイプ椅子から祈った。

 「ホームランしか狙っていなかった」と中川。得意なインコースを待つも、最後の1球に手が出ず三振。後続に思いを託すも、勝利への思いはかなわなかった。

 2人は小学生の時、同じ少年野球のチームでプレーした。キャッチボールもよくしていた。高校では今阪がマネジャーとして、中川が選手として入部。しかし、今阪はプレーしたいという思いが止められずに、2年に上がった春、選手としての活動を部長に直訴した。「危険だから」という理由で、同校のソフトボール部を薦められたが「男子の流れが速い野球をしたい」と譲らない。本来はマネジャーが参加しない朝練でティーバッティングに取り組む様子に部長から「野球、やるか」と許可が下りた。

 選手となれば、中川は遠慮しない。守備では「(打球の)正面に入れよ」と厳しく伝えた。届かなさそうな打球を全力で追いかける今阪の姿はチームの誰もが認めるところとなった。

 試合後、中川は「つらいときも必死に食らいつく姿に自分も頑張らなければという思いにさせてくれた。ありがとう」。今阪も「心が折れそうになったときもあるけど、『野球を続けてほしい』と言ってくれたからここまでこれた。ありがとう」と、互いに感謝を伝え合った。(周毅愷)