(12日、全国高校野球選手権埼玉大会2回戦 西武文理4-0川口工) 力ない打球が二塁に転がった。最後の打者になってしまっ…

(12日、全国高校野球選手権埼玉大会2回戦 西武文理4-0川口工)

 力ない打球が二塁に転がった。最後の打者になってしまった。アウトのコールに川口工の右田佳斗選手(3年)は思わず天を仰いだ。

 幼稚園で始めた野球。父智一さんがつきっきりで教えてくれた。2日に1度、バッティングセンターに連れて行ってくれた。しかし、父は中学2年の夏休みに心不全で急逝。45歳の若さだった。

 父を失ったショックで、不登校になってしまった。進学を諦めた時期もあった。母美千代さん(49)は「好きなようにしなさい」と見守ったが、内心は「不安でいっぱいでした」と振り返る。

 そんな右田選手を中学の担任や野球部の顧問、それにチームメートが励まし続けてくれた。川口工を志し、憧れの高校野球に飛び込んだ。

 今大会のシード校・川口工の4番。168センチ、110キロ。そのパワーを県高野連の関係者は口々に「飛距離がすごい」と語る。だが、力を出せなかった。守備にミスがあり「打撃で取り戻そうと焦りました」。4打席とも内野ゴロに倒れた。

 悔いは、ある。「でも、先生方や仲間に恵まれました。憧れの高校野球に熱中できました」。涙目でそう語った。(抜井規泰)