春夏合わせて19回の甲子園出場経験がある兵庫の古豪・滝川。別所 毅彦(元・巨人など)や村田 真一(元・巨人)など多くの名…

春夏合わせて19回の甲子園出場経験がある兵庫の古豪・滝川。別所 毅彦(元・巨人など)や村田 真一(元・巨人)など多くの名選手を輩出してきた。

 1980年夏を最後に甲子園から遠ざかっており、85年には一時的に廃部になったこともある。前年に開校した兄弟校の滝川二が野球部の歴史を実質的に引き継ぐことになったからだ。

 それでも後に復活。昨年には中村 俊瑛(現早稲田大)というプロ注目の遊撃手が活躍するなど、再び高校野球界で脚光を浴びている。

 さらに今年は高校球界屈指の二刀流がいる。それが新井 瑛太投手(3年)だ。投手としては最速153キロの速球を投げ、打者としても抜群の打撃センスを誇る。プレースタイルは最速153キロ右腕だったが、外野手に転向した中日・岡林 飛翔外野手(菰野)に匹敵する潜在能力を秘める。

 今年4月に行われた高校日本代表候補の強化合宿のメンバーにも選ばれ、初戦は13日、明石西と津名の勝者と対戦することが決まっている。

 プロのスカウトも注目する逸材だが、滝川は進学校ということもあり、新井は進学という報道が出ている。新井のこれまでの成長ストーリーや進路についての考え方について話を聞いてみた。

元プロ監督の目に留まり、投手に転向

 兵庫県神戸市出身。6歳上の兄の影響で小学1年生から野球を始めた。中学時代は明石ボーイズに所属。そこには東海大相模のエースとして活躍する福田 拓翔(東海大相模)がいた。

 福田は当時から世代屈指の速球派右腕として活躍。高校野球ドットコムでも取材を行ったことがある。その時、新井はその他大勢のチームメイトとして練習に参加しており、「やっぱり羨ましいという気持ちもありましたし、自分もこうなりたいなという思いはありました」と感じていたそうだ。

 中学時代の新井は外野のレギュラーとして活躍。学業成績も優秀だったことから、指定校推薦が充実している滝川を明石ボーイズの指導者から勧められ、進学することになった。

 滝川を率いるのはOBの近藤 洋輔監督。独立リーグの香川オリーブガイナーズでプレーした経験を持つ。「バッティング練習を見た時から、高校に入ったらすぐに試合に出てもらえるような感じでした」と中学時代の新井を見て、打撃センスに光るものを感じていた。

 野手として期待されていた新井だが、入学後にキャッチボールの球筋を見た近藤監督に投手転向を勧められる。それはスポーツ推薦がない滝川のチーム事情によるところもあったと近藤監督は言う。

「ピッチャーが何人獲れるという学校ではないので、受験して合格した子の中からピッチャーができる子がいないかを探すんです」

 小学生時代に少し投手の経験はあるものの、明石ボーイズでは試合で投げることはなかったという。ほぼ未経験である投手への転向に新井自身は「やってみたい気持ちはあったので、正直嬉しかったです」と前向きに捉えていた。

 1年生の5月に練習試合で138キロを計測。順調なスタートを切ったように見えたが、「制球面がバラついて苦労しました」と投手としては即戦力になれたわけではなかった。

 大きく成長したのが1年生から2年生にかけての冬。「体重が5、6㎏アップして、身長も伸びました。体が大きくなったら、球のスピードも速くなったと実感しました」と2年生の春に地区大会で151キロを計測するようになった。

高校日本代表候補合宿では超高校級投手から技術を吸収

投球練習する新井

しかし、球速が出るようになったからといって、勝てるようになるわけではない。昨夏の兵庫大会では2回戦で強豪・神戸国際大付と対戦。打撃では3打数3安打3打点と結果を残したが、投げる方では7回5失点という結果に終わり、チームも4対6で逆転負けを喫した。

「自分の真っすぐが強豪校にはまだまだ通用しないと感じました」と力不足を痛感。新チームでは主将となり、名実ともにチームの看板選手となった。

「実力でチームを引っ張っていけるような選手になりたいと思っています」と話す新井。プレー面だけでなく、野球に対する姿勢も指導陣からは高く評価されている。取材日も打撃練習で使ったボールを真っ先に拾いに行く姿が見られた。これは前主将である中村の影響を強く受けているようだ。

「中村さんは僕が滝川高校に入ってから一番尊敬している先輩です。プレー面もそうなんですけど、普段の行いや野球の対しての考え方というのが凄く参考になっていて、今でも尊敬しています」

 春に向けて、チームは夏の第一シード獲得と県大会優勝、個人では2本塁打と自己最速の更新を目標に冬の練習に取り組んできた。

 そんな中、4月上旬に行われる高校日本代表候補の強化合宿のメンバーに選ばれることになる。「一番は嬉しい気持ちがありました」と選出を素直に喜んだ。

 合宿初日と地区代表決定戦が重なったため、新井は初日の途中から参加することになった。試合の疲労が残る中でも新井は投打に実力を発揮。「緊張もなく、普通にやっているように感じました」と2日目の紅白戦を視察した近藤監督の眼にも堂々とプレーしているように映った。

 だが、本人の中では「レベルの高い中でやれて、自分がまだまだ通用しないと感じました」と周囲との実力差を実感したようだ。投打で感じた課題は次のように語っている。

「バッターとしては、高いレベルの中でボールを一発でコンタクトするところが自分はまだまだできていなかったで、そこは自分の課題としています。後は長打力がまだまだ足りないかなと思ったので、そこを突き詰めていきたいと思っています。ピッチャーとしては、変化球の精度がまだまだ他の選手と比べて未熟だったので、そこを変えられるように取り組んでいきたいなと思っています」

 紅白戦で対戦して凄いと感じた選手には芹澤 大地投手と(高蔵寺)と大栄 利哉捕手(学法石川)の名前を挙げている。

「芹澤投手は球が唸るというか、球が生きている感じで、とても速かったです。大栄選手は一番スイングが速くて、打球もビックリするくらい飛んでいました」

 新井にとって合宿は学びの大きい3日間となり、木下 鷹大投手(東洋大姫路)や森 陽樹投手(大阪桐蔭)からは変化球の投げ方を教わった。「スライダーを教えてもらったので、夏に向けて完成させられるようにやっています」と進化を求めて練習に取り組んでいる。

「代表合宿を終えて、一回り二回り大きくなったというか、頼もしい感じが凄く見えてきました」と近藤監督から見ても取り組む意識がより高くなったようだ。

二刀流は継続したい

 初の県大会は3回戦敗退。報徳学園相手に自己最速を更新する152キロをマークして5回まで無失点に抑えていたが、6回表に4点を先制された。7回3分の2を投げた新井は5安打11四死球7奪三振で5失点。打つ方では4打数1安打と強豪校の壁を痛感する結果となった。

 とはいえ、チームは夏の第1シードを獲得。最低限の目標は達成することができた。

 4月の取材時点で新井は進路を明言していなかったが、夏の大会前に進学を表明した。だが、プロを目指す上で影響を受けた選手がいる。それが昨年、神戸弘陵からソフトバンクにドラフト1位指名された153キロ右腕・村上泰斗投手だ。昨春の地区大会で二人は投げ合っており、「マウンドでのオーラとか、球の質が別次元でした」と刺激を受けた。

「プロに行くだけじゃなくて、プロで活躍することが目標です。『どちらかに絞れ』と言われたら厳しいですけど、両方続けていきたいです」と二刀流継続にも意欲的な新井。「天井が見えないですね。両方やれるんだろうなと思います」と近藤監督も投打でのポテンシャルを高く評価している。これから野球を続けていく中でどちらに絞る時が来るかもしれないが、それまでは二兎を追いかけるつもりだ。

 第1シードとして挑む最後の夏。目指すはもちろん甲子園出場だ。「古豪と言われてきたんですけど、そこを強豪校に変えて、強豪校に打ち勝って甲子園に行くのが目標です」と意気込む。

 激戦区の兵庫県で異彩を放つ新井。夏はどんなパフォーマンスを見せてくれるだろうか。