高校野球の育成と発展に尽くした指導者を日本高校野球連盟と朝日新聞社が表彰する「育成功労賞」に、愛媛県立新居浜西野球部副…

 高校野球の育成と発展に尽くした指導者を日本高校野球連盟と朝日新聞社が表彰する「育成功労賞」に、愛媛県立新居浜西野球部副顧問の鈴木一宏教諭(60)が選ばれた。表彰式は8月15日に阪神甲子園球場である。「現役当時も含めて初めて甲子園の土を踏むことになる」と照れくさそうにほほえむ。

 「長々とミーティングはしないし、部員一人ひとりに声かけするタイプでもない」。今年3月まで母校である新居浜西の監督を務めた鈴木さんは、自らの指導スタイルをこう語る。

 ただ、前任の三島の監督時代を含めて約10年にわたって続けてきたことがある。部員との個人ノートのやり取りだ。

 部室にかごを置き、体調や故障の状態、体重と晩ご飯の量、学習時間、個人目標などのチェック項目と自由記入欄を設けたノートを、練習の翌日に提出するよう求めてきた。部長や副顧問も含めて3人が必ず目を通すようにしている。

 授業の合間に読んで、赤ペンで返事を書く。ふだんの会話では気づけなかった内容が素直につづられていることもある。心がけているのは、絶対に否定しないことだ。そんなやり取りを重ねながら、部員たちの成長を感じてきた。

 187センチの長身を生かして高校時代は投手。3年の時は夏の愛媛大会の開幕戦で松山商と対戦。1―5で敗れた。その後1、2週間は「気が抜けた状態だった」。広島大教育学部進学後も野球を続け、「いつかは指導者に」との思いを温めた。

 保健体育の教員として採用され、宇和聾(ろう)学校での勤務を経て1995年に今治市の大島に着任し、初めて野球部の監督に。部員たちと駅伝大会に出たり、釣りをしたりして「家族同然につきあいながら、チームとしてまとまった」。

 三島の監督として臨んだ2008年夏の愛媛大会の準決勝では、済美に九回裏2死まで3―1とリードしながら逆転を許し、敗退した。「そのときも悔しかったが、生徒たちの力を発揮させてあげられず敗れたいくつもの試合の方が悔しかった」と振り返る。

 今春からは新居浜西野球部副顧問となった。グラウンドに立ち、時にはノックもこなす。「若い指導者も来てくれたのでバトンタッチにはちょうど良かった。監督の思いが選手に伝わるように支えていきたい」

 還暦を過ぎ、体力づくりの秘訣(ひけつ)は「風呂にゆっくりつかって、しっかり食べて、ほどほどに飲んで、気ままに寝ること」と語る。(水田道雄)