杜若(とじゃく)(愛知県豊田市)のエース長塚陽太投手(3年)は高校に入って急成長した。1回戦でノーヒットノーランを達成…
杜若(とじゃく)(愛知県豊田市)のエース長塚陽太投手(3年)は高校に入って急成長した。1回戦でノーヒットノーランを達成した今春の県大会は、4試合に登板し、30回と3分の1を投げて自責点0。昨秋の県大会から数えれば、計46回にわたり防御率0.00と記録を伸ばしている。同校ではプロ野球出身の監督が指揮を執る。どんな指導があったのだろう。
■「ユウキさんの指導を受けたい」
185センチの長身から投げ下ろす最速148キロの直球は、低めのストライクゾーンに伸び上がってくる。「僕が見てきた中でも、ここまでの完成度の投手はいなかった」。そう話すのは、田中祐貴監督(46)だ。
田中監督も杜若のエースだった。卒業後、1997年のプロ野球・ドラフト5位で当時の近鉄バファローズに入団。3球団で13年間プロ生活を送り、通算119試合に登板。「ユウキ」の登録名で愛された。引退後、2022年から母校の監督を務める。
長塚投手は、そんな田中監督に誘われて杜若の門をたたいた。中学時代はクラブチーム「名古屋北東ボーイズ」(名古屋市)の控え投手だったが、「身長もあり、きれいな直球を投げる」と素質を見込まれた。「投手のことを熟知するユウキさんの指導を受けたいと思った」という。名古屋市守山区の自宅から約1時間半かけて通学している。
■自分と向き合うプロ仕様の調整法
杜若の投手陣は、1週間ごとに決まったサイクルで練習する。土・日曜日に実戦がある週は、水曜からボールを投げ始め、金曜に投げ込んで備える。登板翌日の月曜は柔軟運動などで体の回復にあて、火曜日はオフとなる。プロの先発投手の調整方法を取り入れたもので、能力を伸ばすだけでなく、ケガを減らす目的があるという。
そのサイクルの中で、各選手が自分でテーマを決めて練習できるのも特徴だ。長塚投手のテーマは、指先に力を集中させ、上からたたくようなイメージで投げて球威を高めること。長身を生かした投球で、ファウルを打たせてカウントを有利にできる「わかっていても打てない」真っすぐが理想だ。時には田中監督とキャッチボールをしながら、無駄のないフォームにするための助言を受けるなど二人三脚で取り組んできた。
こうした指導スタイルは、長塚投手にぴったりはまった。「全体をガチガチに固めて練習するのではなく、自分で考えてできるのがすごくいい」。前週と比べながら、現在の自分の調子とじっくり向き合って調整できるという。
田中監督も「見ていてキャッチボールがいつもより多かったら、何か気になることがあるんだな、とわかる。長塚とは、そうやって行動で会話ができるようになってきた」と話す。
■師が越えられなかった壁、今度こそ
2人には共通点が多い。ともに右の本格派。中学では控え投手で、高校に入ってからエースに成長したのも同じ。2年の夏、愛知大会の準決勝で敗れていることまで同じだ。
昨夏の準決勝・東邦戦では、長塚投手が延長十回にサヨナラ打を浴び、0―1で涙をのんだ。たった1点、たった1球で勝負が決まる悔しさを忘れないよう、チームは「1にこだわれ!」をスローガンに掲げてきた。
杜若は春夏通じこれまで甲子園出場はなく、田中監督も3年の夏は準々決勝で敗れている。
「ユウキさんが越えられなかった壁を越えて、甲子園に行く」
今大会の初戦は7月13日。長塚投手は、昨夏のあの負けた日から1週間ずつ、積み重ねた50週の成果をすべて出し切るつもりだ。(松本敏博)