選手1人、マネジャー1人――。そんな「存続の危機」から復活を遂げた高校野球のチームがある。少子化などで競技人口が減少傾…

 選手1人、マネジャー1人――。そんな「存続の危機」から復活を遂げた高校野球のチームがある。少子化などで競技人口が減少傾向にあるなかで部員を集め、この夏の大会に単独出場できることになった。何が起きたのか。

 6月中旬。鋭い打球の音とともに白球が飛び、「ナイスバッティング!」と大きな声が響く。新潟県立加茂高校野球部の練習に、久しぶりににぎやかさが戻ってきた。

 「まさか8人も入部してくれると思っていなくて」。小池健太主将(2年)は、練習後におにぎりを夢中でほおばる1年生たちを見ながらほほ笑んだ。

 昨夏の全国高校野球選手権新潟大会では、選手は小池さんと3年生7人の計8人。ほかの運動部などから「助っ人」を招いた。初戦で延長10回を戦い、1点差で敗れた。

 3年生が引退した昨秋からは、部員は小池さんとマネジャーの深沼莉里花さん(3年)のみに。小池さんと監督の2人だけの練習が続いた。「もしこのまま野球部がなくなったら」。不安はつきなかった。

 日本高校野球連盟によると、全国の硬式野球部の部員数は、統計が発表されている1982年以降、2014年の17万312人(加盟校4030校)をピークに25年には12万5381人(同3768校)と約10年で4万5千人近く減った。1校の選手が9人に満たず、他校と「連合チーム」をつくって試合に出るケースも多い。

■窮地を救ったマネジャーの奮闘

 加茂高校の窮地を救ったのは、深沼さんの奮闘だった。「夏は『加茂高校野球部』として出場したい」との思いから、部室を掃除したり、スパイクを磨いたり。冬の寒い日でも進んで動いた。

 今年3月には、新入生に配る野球部のパンフレットづくりを始めた。

 「【メンバー】選手1名→打率6割! どこでも守れるスーパースター」「マネージャー1名→めちゃめちゃ動きます任せてください」。6ページにわたって「加茂高校野球部の良さ」をアピールした。

 最後のページでは「どうか今年の夏、加茂高校単独出場できるよう力を貸してください。入ってよかったと3年の夏には思えるような部活です!」と訴えた。

 パンフレットは約100部印刷し、新入生の男子生徒全員に配った。小池さんも部室の片付けなどをし、4月に体育館であった部活動紹介では、深沼さんと2人で1年生に呼びかけた。

■「みんなで楽しく野球をしている姿をもう一度みたい」

 「野球は守備でミスをしてもバッティングで取り返したり、みんなでカバーしたりしてチームが一つになれるところが魅力」と話す深沼さん。パンフレットに加え、野球経験のある新入生一人ひとりに宛てて手紙も書いた。マネジャーとして単独出場も連合チームでの出場もいずれも経験したことを記したうえで「どちらも経験した私からすると、やっぱり夏の大会は加茂高校野球部として単独出場したい気持ちが強くあります。私にとっては今年が最後の夏になります。加茂高校が単独で出場してみんなで楽しく野球をしている姿を最後にもう一度みたいです」と思いの丈をつづった。

 2人の思いが通じたのか、経験者7人と初心者1人が入部。マネジャーとして女子生徒2人も入部してくれた。

■新入生「ここならやれると思って」

 中には同じクラスの生徒を野球部に誘ってくれた1年生も。小学4年生から野球をやっている中野達稀さんは「声をかけたらクラスの子が2人入ってくれて。今は中学の後輩にも加茂高校で野球をやろうって誘っています」と頼もしい。

 中学ではテニス部だった韮沢煌(こう)さんは、加茂高校にテニス部がなかったこともあり、野球部に入った。「野球に興味があったし、パンフレットを読んで、ここならやれると思って」。練習は「初心者にはきついけど、楽しいし、仲間も面白いし」と打ち明ける。

 春の県大会は登録が間に合わず、連合チームでの参加となった。そのため、この夏の新潟大会が新生・加茂高校野球部の「初陣」になる。

 小池さんは小学生のとき、所属していた野球チームが試合終盤に大逆転で勝利したことがあったという。その経験も「野球を続けたい」という思いにつながっている。「監督と2人の練習は寂しかったので、今は本当にうれしい。初戦から全力でぶつかって、少しでも長い夏にしたい」

 存続の危機から単独出場、そして勝利へ。加茂高校野球部の「逆転劇」は始まったばかりだ。(井上潜)