2024年秋の東京都大会で、創部初のベスト4進出を果たした淑徳。都の21世紀枠推薦校にも選出されるなど、一際存在感を放ち…

2024年秋の東京都大会で、創部初のベスト4進出を果たした淑徳。都の21世紀枠推薦校にも選出されるなど、一際存在感を放ちました。同校の指揮を執る中倉 祐一監督が高校野球の現場の生の声を、高校野球ファンのみなさまにお届けします。

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 第107回全国高等学校野球選手権大会、各地で地方大会が開幕しました。「心をひとつに夢の先まで!」のキャッチフレーズのもと、各校がこの“夏”に向けてチームをまとめ上げていきます。我々も昨夏(ベスト8)、昨秋(ベスト4)の経験を糧に、自分たちの“夢の先”を追い求め、冬から春、そして今に至るまで練習を重ねてきました。

 根底にあるものは、これまでにも申し上げた通り「割り切り」と「自律」です。「できることを割り切ることで目標を明確にし、自律を養うことで能動的に取り組み、最大限の成果を得る」ということです。

 春以降という訳ではないのですが、練習の環境やメニューの工夫だけではなく、我々スタッフは1年を通じてキャッチ―な言葉で生徒たちの意識を刺激し、生徒たちが常にその意図をもって野球に取り組むようにしています。「解像度をあげなさい。(“何となく”をなくし根拠を明確にする)」、「“つもり”を持て。(惰性ではなく、意図を明確にする)」、「一分の一(数でごまかさずに1回で決める)」、「エキストラになれ。(傍観者にならず、必ず何かしらのプレーに関わる)」などです。生徒たちの思考力にスイッチが入るように、一般的にはあまりグラウンドでは聞かないような言葉をあえて使っています。印象的な言葉から記憶が刺激されプレーに活かされる。聴覚から視覚、嗅覚を通じて記憶も刺激され、これまで経験した様々な場面がワンプレーに繋がることもあるでしょう。五感を通して知覚するための「アンテナを広げろ」ともよく言います。

 全国3,680校には平等に時間があり、日頃の練習や週末の練習試合も同じように設定されていると思います。その中で、他校より成長するには、いかに一つ一つの経験から意味を見出すかであると生徒に口酸っぱく言っています。数をこなせばこれまでの経験が勝手に繋がるのではなく、いかに自分たちで一つ一つの事象からメッセージを感じ取るのか。緊張して咄嗟の判断が勝敗を分けるような、大会の大事な場面で能動的なプレーができるかどうかは、受け取ったメッセージ次第で大きく変わると思います。

 普段の練習はもちろん、練習試合でもただの勝ち負けではなく、様々なメッセージがグラウンド中に転がっていると思います。偶然にも同じようなシチュエーションを迎えたり、同じような打球が飛んだり、指摘したばかりのプレーが起きたり。それを感じるアンテナを広げるには、プレーの解像度を上げたり、プレーに関わるつもりを持たないといけません。同じミスに対して、何度も挽回の機会が来ている選手には「本当についている。偶然ではなく、天のお天道様から、上手くなれ!とメッセージが届いている。それを受け取るかどうかは君たち次第」とよく言ってきました。最初は「お天道様」が通じなかった選手もいたのですが…。

 シード校として迎えた春季大会は初戦で敗退しましたが、選手権大会に向けての新たな選手、思い通りにならない時の忍耐力、そして何よりも挑戦者という自分達の立ち位置を再認識できたこと、その他にも多くのメッセージを受け取りました。

 東京大会のシード校は3回戦からの出場となり、我々には2つ勝ってきたチームと初戦を迎える自力はないと思っていましたので、結果を前向きに受けとめています。素晴らしい2年生バッテリーとの対戦で、何とか攻略できた面もありますが、終盤にエースが撃ち込まれ敗退となりました。秋季大会6先発4完投の大黒柱が打たれたことで、「秋と違い連戦の夏を一人に依存するな」というメッセージを改めて受け取りました。一方、公式戦経験の少ない投手たちが試合を作り、貴重な経験を積むこともできました。またなかなか試合の流れを引き寄せることができない秋にはなかった展開でも、ダイビングキャッチでピンチを凌いだり、9回2死から追いついたり、執念を感じるプレーも随所に見られました。それでも勝ちこすことができず9回サヨナラ負け。これまでに味わったことのない不思議な試合を経験し、終始嫌な雰囲気の試合に対する免疫力がついた気がします。地に足をつけて、昨夏同様、今夏も自分達らしい立ち位置(ノーシード)から勝ち上がりたいと思っています。

 高いステージを経験して見えた実力と乗り越えるものとのギャップ、勝ち上がりながら想定以上に成長した選手たちの可能性を感じた秋。様々なことを割り切り、制限のある環境を前向きに捉え、自律を養った冬。そして、これまでに味わったことのない試合の流れを経験した初戦敗退の春。最終調整に入った最近の試合でも「ここであの時と同じ場面になるんだ」と思うことがよくありますし、ベンチからもそういった場面を認識したキャッチーな言葉が飛ぶこともあります。すべての経験に意味があり、それが着々と夏に向けてつながり始めています。試合中にふと過去の場面を思い出して勇気が出たり、自制したりすることも経験して来ました。残り僅かな準備期間はもちろん、大会中のプレーにも選手権大会を勝ち上がるヒントがあふれていると思います。

 今夏も炎天下での大会となるでしょう。お天道様のもとでこれまで積み重ねたことの答え合わせができるよう、淑徳らしい立ち位置を認識しつつ、目標への解像度を上げ、それを成し遂げるつもりを持ってしっかりと準備し、一分の一の勝負が繰り広げられる集大成のトーナメントを勝ち上って行きたいと思います。

淑徳高等学校
硬式野球部
中倉 祐一