(8日、第107回全国高校野球選手権宮崎大会1回戦 日向9-0高鍋農) この夏、どうしても果たさなければならない約束が…
(8日、第107回全国高校野球選手権宮崎大会1回戦 日向9-0高鍋農)
この夏、どうしても果たさなければならない約束があった。高鍋農の那須叶和(とわ)主将(3年)は、ある思いを胸に、初戦に臨んだ。
宮崎県北部の山あいにある椎葉村で育った。6人きょうだいの長男。年上のいとこが楽しそうに野球をするのを見て、中学から野球を始めた。
高鍋農へ進んで寮生活に入る前、父・浩史さんと約束した。「やるなら3年間、一生懸命やれるか?」「やる」。寮生活が始まり、たまに実家に帰省すると、浩史さんは目を細め、「調子はどうだ?」「楽しいか」と気遣った。勝てなかった昨夏の新人戦の後、那須主将は、父に誓った。「夏は絶対1勝する」
浩史さんが急に体調を崩したのは昨年12月。肝臓の病気で県外の病院に入院し、年明けに退院。だが2月に容体が急変し、亡くなった。42歳だった。
那須主将は目の前の現実がのみ込めず、「野球を続けていいのか」と迷った。悲しみをこらえ、気丈に振る舞う母・佐和子さん(42)の姿を見て、「最後までやり通す」という約束を果たそうと決めた。
自らに「弱音を吐かない」「主将の責任」を課したのはその頃だ。自身の支えは、「気合しかなかった」。
この日は先制点を許して中盤に点差を広げられ、夏の1勝には届かなかった。それでも攻守交代では誰より先にセンターの守備位置へ全力疾走。自身の最終打席では、内野ゴロに迷わず一塁へ、頭から突っ込んだ。
試合後、悔しさをこらえるような表情で、口を開いた。「1勝はできなかったけど、後悔はない」。少し落ち着いたら、父に伝えるつもりだ。
「最後まで、やりきったよ」(奥正光)