今年のセンバツで下馬評を覆し、初出場ながらベスト4に勝ち進んだ浦和実。その大黒柱が、独特の投球フォームで話題となった石戸…
今年のセンバツで下馬評を覆し、初出場ながらベスト4に勝ち進んだ浦和実。その大黒柱が、独特の投球フォームで話題となった石戸 颯汰投手だ。昨秋に浦和学院など強豪校に完封勝利を上げた実績を持つ石戸は選抜でも滋賀学園戦で完封勝利を上げ、その後も好リリーフでチームをベスト4に導いた。
独特の足上げから繰り出すストレートは120キロ台だが、垂れない伸びのある球質で次々と空振りを奪い、大きく落ちるチェンジアップで翻弄する投球は爽快さがあった。そんな石戸を擁する浦和実はこの夏、10日に初戦を迎える。4回戦まで勝ち進めば、春優勝の浦和学院と対戦する可能性がある。
独特の投球フォームを作り上げたきっかけ、投球術、夏へ向けての思いを語ってもらった。
“センバツの激闘”の代償
———辻川正彦監督に話を聞きましたが、センバツの激闘の影響で疲労が残り、かなり慎重に調整をしているようですね。
石戸 まだ実際のところ調子自体(取材日 6月中旬)は上がっていません。センバツの時も疲れがある中、ごまかしながら、やってきた感じですね。
———センバツ初戦で完封勝利を上げた後からも疲れはありましたか。
石戸 やはりありましたね。慣れない環境で投げていたので、疲れは大きかったと思います。
———準決勝の智弁和歌山戦の時はやはり疲労のピークだったのでしょうか
石戸 疲労は確かにピークでした。その中でも調子を整えて、良い状態で投げることはできました。その中でできる限りのことはやったとおもいます。
———石戸投手の調子のバロメーターはどこにありますか。
石戸 肩、肘はもちろんなんですけど、足ですね。足を上げた時に重たいなと感じる時はあまり調子が良くないですね。バロメーターという部分では足の疲れ具合というのは、自分にとって大きい部分だと思っています。センバツ初戦の滋賀学園戦というのは、足が軽かったですし、あの試合をベストに持っていったので、調子は良かったですね。
———センバツ後、いつから投球を再開したのでしょうか?
石戸 ゴールデンウィークの終盤から投げ始めていました。今はトレーナーの方と相談しながら、球数も調整しながら、じっくりと夏に合わせています。練習試合では完投はなく、最大で7回ぐらいです。最近の練習試合では球数が多くなってしまい、完投できる球数になっていないと思います。

自分の投球フォームの根幹は握力
———ところで石戸投手の独特な投球フォームはどういう経緯で行きついたのですか。速い球を投げたい、強い球を投げたいなどいろいろありますが、石戸投手の場合はどうでしょうか。
石戸 当時は良い球を投げたいという思いでフォームを変えましたね。
———大きく足を上げるフォームはどういうきっかけですか。
石戸 最初は足の下ろし方を変えることから始めました。右足を90度の位置まで上げてから今までは真っ直ぐ下ろしていました。右足を「L字」のようにステップするやり方にしたのですが、それだと上半身、下半身の連動性がなく、タイミングが合いませんでした。そこで、自分なりにアレンジを加えた結果、足を高く上げるフォームになりました。足を上げることで、自分の中で、時間調整がうまくいきました。
———中学3年生の時には今の投球フォームは固まっていたんですか?
石戸 だいぶ自分のイメージで投げることができていました。コントロールも悪くなかったです。ところどころ出すことはあっても、出してはいけないところで四球を出すことはなかったです。
———浦和実にいくきっかけは?
石戸 浦和実以外にもいくつかの学校からお誘いをいただいていました。ただ、自宅から遠い学校が多くて…。その中で浦和実が自宅に近かったんです。また、中学2年生のときに浦和実には豆田 泰志さん(西武)がいて、プロに進んだのが大きかったですね。
———辻川監督から石戸投手の球質が変わったのは昨年6月からと話してくれたのですが、実際何が変わったのでしょうか。
石戸 1年冬の練習が大きかったですね。低めに投げる際、垂れない感覚がありました。その中でもウエイトや、握力を鍛える練習を行っていたのが大きかったですね。自分はリリースする際に叩くことを意識しているので、握力強化の影響が大きかったと思います。さらに2年の夏休みにかけて変化球のコントロールも安定するようになったのも大きかったです。
———石戸投手はストレートに加えて、チェンジアップも評価されていますが、チェンジアップはどういうイメージで投げていますか。
石戸 1年秋から投げ始めて、2年の夏休みで、だいぶ形になってきました。自分は「抜く」ことがあまり得意ではないので、チェンジアップはしっかりと力強く握って投げ抜くことをイメージで投げています。どういう軌道を投げるのかはあまり考えず、強く握ってストレートと同じ腕の振りで投げることを意識しています。
———現在は最速133キロ。球速についてはどんな思いがありますか。
石戸 球速はいちばん大事なバロメーターになりますし、求めていきたい数値です。ただ、高校生の間に自分の技術を崩してまで球速を求めることはないと思います。
センバツで活躍できる手応えはあった

———秋、完封した浦和学院戦では好調な状態で臨めたのですね。
石戸 秋の県大会は連戦が多いので、疲れもあったんですけど、強力な浦和学院打線との対戦でしたので、ギリギリとの戦いだったなと思います。
———この浦和学院戦と、関東大会のつくば秀英戦の完封、横浜戦での好投によって、センバツでもある程度投げられる手応えは掴んだのでしょうか
石戸 一番大きかったのは横浜戦での好投ですね。神宮大会でも優勝した強豪相手に投げられたことは、センバツに選ばれてもそれなりに投げられる手応えはありました。
———センバツ出場が有力と言われる中で過ごした冬はどんな課題を持って取り組んできたのですか?
石戸 ストレートの質を追求してきました。自分は高めのボールを見逃されるのではなく、思わず振ってしまうような伸びのあるストレートを投げたいと思っていました。それを投げるには親指が大事だと思っていまして、親指を力強く持ちます。そうすることで、人差し指と薬指を離すタイミングが適切になり、その結果、安定して伸びるストレートを投げる事ができるかなと思います。親指を強く握るのは変化球でも同じで、チェンジアップも強く握って投げていますね。
浦和学院戦に100%の力を
———夏の組み合わせが決まりました。2勝すれば、4回戦で優勝候補・浦和学院と対戦するかもしれません。
石戸 やはりこの試合を目指して練習にしていますし、4回戦まで勝ち進んで、気持ちも技術も、100%の状態で臨むというのはチームの共通認識になっています。
———石戸投手が今まで投げた試合の中でも昨秋の浦和学院戦はベストピッチングでしたか。
石戸 そうですね。自分の中でもベストピッチングに近い投球だったと思います。でも自分の中では満足していないです。まだ上を目指せると思いますし、今の段階でこれまで勝った試合をベストピッチングと位置づけるのはまだ早いと思っています。
———勝ち進む中で完封勝利をあげた浦和学院戦、滋賀学園戦のような状態に持っていけると思いますか。
石戸 自分の中では持っていけると自信はあります。
———夏、勝ち上がる上でライバルとなりそうな浦和学院はどんな印象がありますか。
石戸 春はあくまで映像を見た限りなんですど、対応力が格段に上がったと思います。成長率が凄くて、秋とは別のチームです。ホームランを打たれると怖いですよね。流れが変わるんで。特にノーアウトからの長打とかはやはり怖いので、走者がいる場面でもホームランも打たれないようにしないといけないですね。技術的にも、コンディション的にも100%にしないと勝てないと思います。
———甲子園のマウンドはどうでしたか。
石戸 特別な緊張感で投げる甲子園のマウンドは非常に楽しいものがありましたし、もう1回、夏に戻らないと、あの大観衆の中で投げることはないので、もう一度甲子園で投げたい思いはあります。