(7日、第107回全国高校野球選手権福岡大会1回戦 福岡農0―10城南=六回コールド) 五回表2死、右越えに打球を飛ば…
(7日、第107回全国高校野球選手権福岡大会1回戦 福岡農0―10城南=六回コールド)
五回表2死、右越えに打球を飛ばした福岡農の9番打者が、二塁ベースを蹴る。塁審が移動して空いた三塁に、球審の中村敏治さん(80)が全速力で駆け寄った。
三塁上でのクロスプレー。判定にスタンドの注目が集まる。中村さんは右手を大きく振り上げ、「アウト!」。
審判を始めて60年。今大会での引退を決めた。夏の福岡大会で毎年グラウンドに立ち、審判長も務めた。甲子園でもジャッジする機会に恵まれた審判人生だった。
この日は、1回戦の福岡農―城南の試合の球審を務めた。「目標に向かって一生懸命な球児の姿は、昔と何一つ変わらない」と目を細めた。
自身は久留米商で軟式野球の元球児。審判になったのは大学3年の時に知人に誘われたのがきっかけだった。その年の夏の福岡大会で早速、高校野球の審判となり、プロパンガス販売業の傍ら、審判を続けてきた。
「球児は文武両道だが、私は仕事と野球の両立。高校野球が好き、審判が好き。家族の理解と支えのおかげです」
毎年、球児の熱意に心打たれるという中村さん。試合中、負けているチームには「元気だそう!」と声をかける。この日の試合も大差の展開になったが、「まだいけるよ」と声をかけた。ボールパーソンが交換用の球の追加が遅れても、優しい笑顔で手招きをしていた。
「この歳で若い子たちと一緒に汗を流して野球ができる。こんなにうれしいことはない」
グラウンドでの軽い身のこなしは年齢を感じさせない。日々、足腰を鍛えるため1万歩の散歩をこなしている。タンパク質を重視した食事や十分な睡眠をとって、酷暑でも体調は万全だという。
「この暑さは異常だけど、なんとかなっている。かつての平和台球場の人工芝での試合はとても暑かったし、今と違って給水タイムもなく、延長戦も長かった」と振り返る。
今大会はまだ数試合、審判としてグラウンドに立つ。引退後も「顧問」の立場で、後進の育成に励むという。
「でも夏が来ると、またやりたくなっちゃうかもなあ。困ったもんですね」
まだまだ高校野球に情熱を注ぎ続ける。(根元紀理子、波多野大介)