連敗を喫したホークスには、柳田悠岐がいなかった。 9月20日のファイターズ戦で右の脇腹を痛めたからだ。当初の診断通…
連敗を喫したホークスには、柳田悠岐がいなかった。
9月20日のファイターズ戦で右の脇腹を痛めたからだ。当初の診断通り、全治3週間ならクライマックスシリーズ(CS)には間に合うはずだったのだが、CS開幕の3日前に試みたティーバッティングでは、数球打っただけで無理だと判断せざるを得ない状況だった。今もなお、バットを振れる状態にはなく、全力で走ることもできていない。
しかし、内川聖一は戻ってきた。

CSファイナルステージで2試合連続本塁打を放つなど好調の内川聖一
7月23日のマリーンズ戦で左手の親指を骨折。9月30日に復帰するまで、50試合に欠場した。優勝の瞬間もグラウンドには立てず、悔しく、もどかしい思いを味わったホークスの主将は、わずか4試合ではあったがシーズンの最後でスタメンに復帰。そのすべての試合でヒットを放った。イーグルスが勝ち上がってきたファイナルステージ、シーズンの分の恩返しがしたいと、2年ぶりの日本一を目指して、内川は4番に座った。
その存在感は、やはり際立っている。
開幕前のセレモニーでは先頭に立って入場し、試合ではマウンドへ足を運んでは、ピッチャーの尻を叩いて鼓舞する。ミスをしたチームメイトには大丈夫だからと手を上げ、声を張り上げて励ましていた。まさかの連敗を喫したホークスにあって、内川はバットでも2試合連続でホームランを放ち、8打数4安打の打率5割と、文句のつけようがない数字を叩き出している。
しかしイーグルスにとっては、この結果は織り込み済みでもあった。
確かに数字は残っている。ただ、ゲームを左右する場面では打たれていない。それができているのは、ケガでシーズンをフルに戦えなかった内川には負い目があるに違いないと考え、結果を欲しがるバッティングをするのではないかと分析していたからだ。つまり、外のボールは逆らわずに右へ打ち、甘い内のボールを引っ張りにいくというバッティングである。そうだとすると、イーグルスの攻め方はこうなる。
緩い変化球を投げられるピッチャーは、とにかく低めへ。
速いストレートを投げられるピッチャーは、とにかく腕を振る。
この考え方を徹底することで、イーグルスとしては甘く入ったときのリスクを最小限にとどめることができる。
第1戦の初回、茂木栄五郎が先頭打者ホームランを放って先制された直後、ホークスは3番に入っていた中村晃がセンター前ヒットで出塁し、4番の内川が打席に入った。
左腕の塩見貴洋は初球、外の変化球、2球目にインハイの真っすぐを投げて、セオリー通りの配球を内川に印象づけた。だから3球目、4球目のアストローのまっすぐに対し、内川は変化球が頭にあるかのようなスイングをしてしまう。2-2の平行カウントになってから、塩見は5球目をアウトローへワンバウンドになるフォークを投じた。ボール球にバットが止まらない内川は、三振を喫してしまう。
内川の第2打席は0-3とリードを広げられた4回。先頭の今宮健太がレフトへヒットを放ち、ホークスが反撃の狼煙(のろし)を上げた場面だった。ワンアウト1塁で内川。塩見はここで初球、104キロのカーブをアウトローへ投じる。これがワンバウンドになって、2球目。キャッチャーの嶋基宏がアウトローへ要求したストレートが真ん中高めに浮いた。塩見がその場面をこう振り返る。
「長打だけは避けたかったですし、低めにキッチリと……でも、あの4回の場面は高く行ってしまったので、危なかったんですけど、ラッキーでしたね」
高めの甘いボールを強引に打ちに出た内川は、ダブルプレーとなる最悪のサードゴロを打ってしまう。
内川の第3打席は1点を返して1-3となっていた7回の先頭。マウンドには好投の塩見からバトンを受け継いだ2番手、フランク・ハーマンがいた。ここで内川は、ハーマンのアウトコースのスライダーをうまくライト前へ弾き返す。たとえばこのヒットがイーグルスにとっては織り込み済みだったのだ。イーグルスの行木茂満スコアラーが明かす。
「内川に関しては、シングルヒットはOKという気持ちでいっています。ライト前ヒットならいい。とにかく低めにボールを集めて、最低でもシングルに抑える。150キロを投げられるピッチャーは思い切り腕を振って、高くてもいいから速い真っすぐを投げる。スピードのないピッチャーは思い切り腕を振って、緩いボールを低めに集める。基本は内川に引っ張らせない配球を心掛けています」
ところが9回裏、ツーアウトから打席に立った内川は、イーグルスの守護神、松井裕樹からレフトスタンドへ特大の一発を放つ。思い切り引っ張ったバッティングだった。行木スコアラーがこう続ける。
「あの場面は1点差だったらインコースはいっていない。差が2点あったので、インコースへぶっこんでやろうという判断でした。結果、打たれてはいますけど、ウチのピッチャーの状態もいいですし、攻めるべきところは攻められていると思います」
第2戦のサウスポー、辛島航も塩見と同じような考え方で内川に対峙した。第1打席は低めに投げたチェンジアップを内川がうまく拾って、センター前へ。それでもここも、先頭でのシングルヒットならOKと考えて、辛島は後続を断つ。
4回も先頭バッターとして打席に入った内川に対し、辛島は丁寧にボールを低めに集めようとしていたのだが、時折、高めに浮いてしまう。緩急をつけていた分、捉え切れない内川だったが、さすがにこのボールは見逃してはくれなかった……6球目、懐を狙ったストレートが少し高く浮いたところを、内川がヒジをうまく畳んで、強く振り抜く。レフトスタンドへ2試合連続となるホームラン。ホークスが同点に追いついた。この場面、古久保健二コーチがこう振り返る。
「このシリーズ、今宮と内川がポイントになると考えていたんだけど、内川はあれだけのバッターだから、ある程度、打たれるのはしょうがない。ただ、2本目のホームランは一発を打たれてもまだ同点で、回も早かったから。もっと大事なところで切ることができていたのはよかったんじゃないかな」
その「大事なところ」というのは6回だ。
先頭の今宮がヒットで出て、3番に入った中村晃に、柳田だったらあり得なかったであろう送りバントのサインが出た。しかし中村がバントを上げてしまい、失敗。内川を打席に迎えて、イーグルスはピッチャーを辛島から宋家豪(ソン・チャーホウ)にスイッチした。キャッチャーの嶋が言う。
「ソンくんは真っすぐがいいし、あの真っすぐを初めて見て一発で弾き返すのは難しいと思いました。だからいけるところまで真っすぐで押していこうと考えました」
育成選手として去年、イーグルスと契約したWBCの台湾代表。今年の夏に支配下登録されたばかりの宋は、イーグルスの秘密兵器だ。内川も初めて見る150キロ台のストレートについていけない。
しかも、ここで嶋が巧妙な動きを見せる。
2球目、そして4球目。
一瞬、インコースに構えるふりをして、外角へ構えなおしたのだ。宋にインコースを要求すれば、ボールを置きにいって腕が振れなくなる恐れがある。コントロールに自信があるわけではない宋には、思い切り腕を振らせたい。とはいえ百戦錬磨の内川に、インコースを狙ってこないとは悟られたくなかった。だから、インコースに構えるふりをして、内川に強引なスイングをさせようとしたのである。
宋が投げた5球のストレートは、すべてアウトハイだった。内川が外のボールに逆らわず、逆方向へ打ち返そうという意識があれば、結果は違っていたかもしれない。しかし内川は、速い球を強引に打ち返そうとした。結果、アウトハイのボールを空振りし、大事な場面で三振を喫してしまった。嶋が、打たれた2本のホームランの残像をうまく利用したともいえる。
第3戦、イーグルスのマウンドには則本昂大が上がる。今シーズンの最終戦、則本は内川と対戦し、ヒットを2本打たれた。外の速いストレートを右へ弾き返され、外のチェンジアップを拾われてレフト前に運ばれた。果たして今日、則本と嶋のバッテリーは、内川に対してどんな攻め方をするのだろうか――。