ワールドシリーズまであと1勝──。ヤンキースが夢舞台に近づく大事な一戦で、田中将大がまたもや大きな貢献を果たした。…

 ワールドシリーズまであと1勝──。ヤンキースが夢舞台に近づく大事な一戦で、田中将大がまたもや大きな貢献を果たした。



7回無失点の快投で、第1戦のリベンジを果たした田中

 最新のマスターピース(傑作)は、現地時間10月18日に行なわれたア・リーグ優勝決定シリーズ第5戦。田中はアストロズ打線を7回3安打1四球で無失点、8奪三振の快投で完璧に封じ込め、チームを5-0の勝利に導いた。これで、ヤンキースはシリーズを3勝2敗と勝ち越し。28歳の日本人右腕が立役者となり、2009年以来となるワールドシリーズ進出に王手をかけた。

「今日は、すべての球種が前回登板よりもよかった。でも、よかったからといって制球が甘くなってしまっては意味がない。その部分でうまく優位に立ちながら、相手バッターのバランスを崩せたかなと思います」

 そんな試合後の本人の言葉通り、地元ファンの期待を集めた田中の投球には躍動感と安定感があった。守備陣のミスもあって、4、6回以外は毎回走者を許したものの、ランナーを置いた場面でのアストロズは8打数無安打(5三振)。速球、スライダー、スプリットのすべてに好調時のキレがあり、重要な場面で相手打者が打球を外野まで飛ばすことすら許さなかった。

 この試合の大きなポイントとなったのは、先頭のユリエスキ・グリエルに二塁打を打たれた2回表だろう。相手の先発投手がエース左腕のダラス・カイケルだっただけに、先制点は与えたくない状況だった。このピンチで、田中は後続打者を見事に3連続内野ゴロに斬って取る。

 特に興味深かったのは、ひとつアウトを取ってグリエルに3塁まで進まれてから、カルロス・ベルトランに対して2球目から速球を3連投したことだ。こういった場面での田中は、スプリットを多投して三振を狙いにいくことが多いが、この日の投球は毛色が違った。

「(ベルトランの時は)三振がベスト。結果的に、最後決めにいったボールが甘くて(バットに)当てられましたけど、それでも内野ゴロに抑えられた。真っ直ぐを続けたことは戦略的なところもあるので、(理由は)言えないですけど」

 本人に確認すると、2塁ゴロを打たせたベルトランへの5球目はスプリットだったというが、それ以外、このイニングに投げた13球のほとんどが真っ直ぐ系かスライダーだった。

 6イニングを2失点に抑えた第1戦同様、今シリーズの田中が速球系を重視しているのは、アストロズ打線の裏をかく狙いがあるのか。それとも単に真っ直ぐの出来が極めていいのか。答えはどうあれ、持ち球の質に自信を持っていなければできない配球だったことは間違いない。速球の状態が向上しているからこそ、スプリットとのコンビネーションが相乗効果を発揮していることも容易に想像できる。

 今プレーオフでの田中は3試合で20イニングを投げて2失点。18個の三振を奪い、防御率は0.90と絶好調だ。ここまでくれば、気の短いニューヨーカーも、もう田中に全幅の信頼を寄せているだろう。

「自分のやること、やらなければいけないことを明確にしているというのが一番。シンプルに考えて、自分の持てる力を全て出し切ることだけ」

 試合後、田中は迷いのない表情でそう語った。この試合で、過去2度のプレーオフでの対戦でいずれも敗れていたカイケルに初めて勝利したことも、本人の気持ち的には大きいはずだ。

 シーズン前半から続いた波の激しさも今は昔。紆余曲折を経て、背番号19は最も大事な時期に計ったように心身のピークを持ってきた感がある。

「(田中の投球は)特別だった。彼のプレーオフでの3度の登板はすべて特別。私たちにはそれが必要だった。重要なゲームだったからね」

 ジョー・ジラルディ監督もそう目を細めたが、ヤンキースの首脳陣は、今ならチームの命運をかけたゲームに躊躇(ちゅうちょ)なく田中を送り出すはずである。ただ……ここで気になるのは、今季中に田中が再び大事なマウンドに立てるかどうかということだ。

 ポストシーズンに入って劇的な勝利を続けるヤンキースは、”運命のチーム(Team of Destiny)”らしい雰囲気を漂わせ始めている。地元ファンの熱烈なサポートもあって、今プレーオフではヤンキースタジアムで6戦全勝。第3戦から第5戦では観客も大盛り上がりで、かつての熱狂がニューヨークに戻りつつある。

 しかし、ア・リーグ優勝決定シリーズは20日の第6戦から再びヒューストンに舞台を移す。ヤンキースは敵地で少なくともひとつは勝たなければいけない。シーズン中は48勝33敗、プレーオフに入って4連勝とアストロズが自信を持つミニッツメイド・パークで、果たして残る1勝を手にできるのか。

「(今日の勝利は)率直に自分を褒めてあげたいと思います。でもこれで終わりではない。(次の登板が)どういった形になるかはわかりませんけど、やっぱり明日から準備していかないといけないと思います」

 第5戦が終了した後の会見で、田中はそう語って前を向いた。メジャーキャリアで最大の試練を経験した2017年の最後に、ワールドシリーズのマウンドに登るとすれば、そのストーリーはまるでハリウッド映画のようなドラマとなる。プレーオフでの勝負強さを見る限り、ヤンキースと田中はその方向に引き寄せられているようにすら感じられる。

 そんなミラクルストーリーを完遂するために、必要なのはテキサスでの値千金の1勝だ。第6戦で先発予定のルイス・セベリーノ、第7戦先発予定のCC・サバシア、その背後に控える強力ブルペンにすべてを託すのか。それとも田中にも中1、2日でのリリーフ登板があり得るのか。

 スリリングな予感とともに、MLB の2017年シーズンはいよいよ大詰め。田中が織りなしたドラマチックな物語も、間もなくクライマックスを迎えようとしている。