物心ついた頃には、右目はもう義眼だった。宮崎県立門川高校の黒木(くろぎ)賢斗捕手(3年)は、第107回全国高校野球選手…
物心ついた頃には、右目はもう義眼だった。宮崎県立門川高校の黒木(くろぎ)賢斗捕手(3年)は、第107回全国高校野球選手権宮崎大会に向けた守備練習で、懸命に白球を追う仲間たちに、檄(げき)を飛ばしていた。「あきらめたら、終わりやぞ!」
宮崎県北部の山あいにある諸塚村で育った。3歳の時に網膜の病気で手術をした記憶はあるが、詳しいことは知らない。父親が少年野球の監督をしていた影響で、幼い時からバットとボールを握っていた。
小学生になるとすぐ地元のチームへ。ほかの選手たちとの違いに気づいたのは、この頃だ。「ゴロを体の正面で捕ったつもりなのに、右足の前で捕っていた」
■別メニューの特訓、打撃も繰り返し
熱心なコーチが、別メニューの練習につき合ってくれ、グラブの位置を体の正面に固定して捕球する練習を、何度も何度も繰り返した。打撃でも、距離感がつかみにくい。それでも「ボールを飛ばすのが好きで、ずっと打ち続けて、慣れた」。
学校でからかわれたこともある。「見えないやろ」「片目やから、できんやろ」。そんな時は、母親の毅然(きぜん)とした言葉を思い出し、気持ちをのみ込んだ。「他の人と違うかもしれない。でも野球選手としては同じ。結果で返せ」
■家族に気持ちをぶつけ、すぐ後悔
中学生の多感な時期は、周りの子と比べて思い詰め、気持ちを親にぶつけたこともある。「もし(右目も)見えたら、もっと打って活躍したかもしれない」。言い返さない親を見てすぐ、後悔した。
右目を自分の強みに、「逆にプラスにする」と腹を決めた。努力する姿は見られたくなくて、自宅で黙々とバットを振った。中学2年の時、地域の選抜チームで遊撃手として活躍するようになると、応援してくれる声が徐々に増えていくのがわかった。うれしかった。
門川高に進んだ当時、同学年の部員は吉田大斗主将と、赤木成大(なると)投手と、自分の3人だけ。3人はいつも一緒だった。赤木投手は「低めに変化球がいっても止めてくれる安心感がある。(黒木捕手の)サインに首は、ほぼ振らない。この夏は一緒に校歌を歌う。途中であきらめたりしない」。
■二盗阻止の秘密、聞こえる、仲間の声が
吉田主将は一塁手。仲間の身になって考えようと、右目を見えないようにしてノックを受けたこともある。球が捕れないだけでなく、キャッチボールも難しかった。「(黒木捕手は)一塁走者の(盗塁の)スタートが見えにくいはずなのに、二盗を阻止するからすごい」
そばにいた黒木捕手が、顔を上げてつぶやくように言った。「見えなくても、聞こえるんです。吉田が声を出して(盗塁を)知らせてくれる。それを頼りに、思い切り投げるだけだから」
宮崎大会は5日開幕し、門川の初戦は8日に決まった。これまで多くの人に支えられ、野球を続けてこられたことを知っている。だから「結果で、恩返ししたい」。(奥正光)