サッカーは日々、進化している。中でも近年、発展を遂げたのがサイドバックだろう。サイドバックを主人公にしたサッカー漫画『…
サッカーは日々、進化している。中でも近年、発展を遂げたのがサイドバックだろう。サイドバックを主人公にしたサッカー漫画『アオアシ』(小学館)は最終回を迎えたが、今後、現代サッカーは「サイドバックの時代になる」と言うのは、サッカージャーナリストの大住良之だ。日本代表の北中米ワールドカップにおける「システム」にもかかわるサイドバックの重要性を考える!
■高評価のポイントは「アンダーラップ」
「サイドバックの攻撃参加」といえば、少し前まで前線の選手の外側をタッチライン沿いに追い抜いていく「オーバーラップ」が主体だったが、ハキミのように「アンダーラップ(ボール保持者を内側から追い越す動き)」を得意とするサイドバックの評価がどんどん高まっている。
日本では、2018年にアンジェ・ポステコグルーが就任した横浜F・マリノスが、松原健(右)とティーラトン・ブンマタン(左)の両サイドバックがボランチのポジションに入り、そこからウイングの内側のポジションへと移っていくプレーで注目され、2021年の優勝時(監督はケヴィン・マスカット)には、小池龍太(右)と永戸勝也(左)が同じ役割を果たした。
今夏イングランド・チャンピオンのリバプールが獲得した選手のなかで注目されているのが、ミロシュ・ケルケズという21歳のハンガリー代表左サイドバックである。2022/23シーズンにはオランダのAZで菅原由勢と左右のサイドバックを担った選手だが、2023年から2シーズンプレーしたプレミアリーグのボーンマスでの活躍を高く評価したリバプールが、4000万ポンド(約72億円)という巨額で引き抜いた。
ケルケズはオープンプレーからのアシスト数でプレミアリーグ3位(5点)、クロス成功率で2位(35本)、10ヤード以上の持ち上がり数で3位(144回)、スプリント数では4位(845回)と、攻撃のあらゆる面で最高クラスの左サイドバックであることを示しているが、なかでもリバプールが期待するのが、昨季のプレミアリーグで最多数となった「アンダーラップ」(52回)だと言われている。
■ワールドカップでは再び「4バック」に
日本代表は昨年からのワールドカップ・アジア最終予選を3バックで戦ってきた。アジア勢のロングボール戦法への対応のためだったが、ワールドカップではどんな戦いをするのだろうか。3人のDF自体には問題はないが、堂安律(右)と三笘薫(左)といった「本職アタッカー」がウイングバックとしてプレーするのはリスクがあり、同時に、押し込まれる状況では「宝の持ち腐れ」になる恐れもある。
私は、ワールドカップでは再び4バックに戻して戦うのがいいのではないかと考えているが、そうなると、丸1年間使ってこなかった「サイドバック」のプレーのレベルが気になるところだ。ワールドクラスの「スーパースター」に頼るのではなく、コレクティブ(集団的)に戦うしかない日本としては、「オーバーラップ」だけでなく効果的な「アンダーラップ」もできるサイドバックがどうしてもほしいところだ。
■日本代表の「攻撃をリードする」SB候補
Jリーグでも多くのチームで「アンダーラップするサイドバック」が使われており、けっして目新しい戦術ではない。しかしアクラフ・ハキミのように、それを世界のトップレベルでこなすことができる選手が出てこないと、ワールドカップでは苦しむことになるだろう。
「アンダーラップ」の多用で、世界のサッカーは「サイドバックの時代」に入ろうとしている。それは、PSGにおけるハキミの存在感を見れば明らかだ。日本代表の「サイドバック候補」には、菅原をはじめ、関根大輝、伊藤洋輝、中山雄太、長友佑都らがいるが、「サイドバックの時代」にふさわしいプレーで日本代表の攻撃をリードする存在が出てくるだろうか。