サッカーは日々、進化している。中でも近年、発展を遂げたのがサイドバックだろう。サイドバックを主人公にしたサッカー漫画『…
サッカーは日々、進化している。中でも近年、発展を遂げたのがサイドバックだろう。サイドバックを主人公にしたサッカー漫画『アオアシ』(小学館)は最終回を迎えたが、今後、現代サッカーは「サイドバックの時代になる」と言うのは、サッカージャーナリストの大住良之だ。日本代表の北中米ワールドカップにおける「システム」にもかかわるサイドバックの重要性を考える!
■世界最高の「左SB」に憧れて
アクラフ・ハキミはスペインのヘタフェで1998年11月4日に生まれた。ヘタフェは首都マドリードの都市圏に属し、マドリードの南に位置している。両親はともにモロッコからの移民だった。地元の少年チームでプレーした後、7歳からレアル・マドリードのアカデミーで育った。憧れは当時「世界最高の左サイドバック」と言われたレアルのブラジル人スター、マルセロ。マルセロと違い、ハキミは右利きだったが、幼い頃から右あるいは左サイドバックとしてプレーした。
17歳でレアルのトップチームにデビュー、19歳のときにドイツのボルシア・ドルトムントに2年間のレンタル移籍、攻撃力が売り物のサイドバック(右あるいは左)として大活躍した。しかし、レアルに戻ることはかなわず、2020年、21歳のときにイタリアのインテル・ミラノに移籍、セリエA優勝に貢献、2021年にパリ・サンジェルマン(PSG)に移籍した。
■両親から受け継いだ「愛国心」
当然、スペイン代表を目指す道はあった。しかし、ハキミは家族とはモロッコ方言のアラビア語で話し、サッカーではスペイン語を使う。両親が大事にしたモロッコへの愛国心を受け継ぎ、幼い頃からモロッコの人々のためにプレーしたいと考えていた。だから16歳でモロッコU-20代表に招集されたときには即座に応じ、2016年10月、17歳のときにモロッコA代表にもデビューを飾った。左サイドバックとしての出場だったが、1ゴールを記録している。
2018年には19歳でワールドカップ・ロシア大会に出場。そして4年後の2022年カタール大会では、右サイドバックとして圧倒的な存在感を見せ、モロッコ代表を4位というアフリカ・サッカー始まって以来の快挙に導いた。モロッコはチーム全体に戦闘力のあるチームだったが、なかでもハキミが支配する右サイドは大きな推進力となった。
■守備陣を吸い寄せる「シュート力」
今年のUEFAチャンピオンズリーグ優勝のPSGでも、ハキミの存在感は目を引く。攻撃になるとアタッカーのようなポジションを取り、それによって相手守備陣を混乱させた。とくにインサイドFWのような位置に入ると、右足でも左足でも圧倒的なシュート力があるだけに、相手守備陣もハキミに吸い寄せられる。それによって周囲のアタッカーたちがフリーになる。
PSGはフランス・リーグアンの2024/25シーズンを圧倒的な成績で制覇した。当然のことながら、攻撃の主役はウスマヌ・デンベレ(21得点)、ブラッドリー・バルコラ(14得点)、ゴンサロ・ラモス(10得点)といったアタッカー陣だが、ハキミの攻撃面での貢献は彼らに劣らないものがあった。25試合に出場し、4得点(クラブで7位)、5アシスト(同3位)という記録以上に、ハキミの存在は大きかったのだ。25試合でシュート31本、うち「枠内」が12本という数字は、サイドバックとして特筆すべきものだ。