高校野球は硬式だけではない。軟式の全国選手権大会はこの夏、70回の節目を迎える。それを記念して5月、東西の選抜チームに…

 高校野球は硬式だけではない。軟式の全国選手権大会はこの夏、70回の節目を迎える。それを記念して5月、東西の選抜チームによる交流試合が阪神甲子園球場で開かれ、長野県内から2人の球児が出場した。硬式でしかたどりつけないはずだった「夢の舞台」に立ち、この夏への決意を新たにした。

 松商学園の本木魁星(3年)は交流試合の五回、レフト側のブルペンからマウンドに向かった。「大きいな」。4万7千超の観客席。そり立つバックネット裏のスタンド。「軟式だと絶対に立てない」と思っていた舞台だ。

 「緊張はしなかった」という。長い手足を生かし、力のある直球を投げ込む。球速は最速で133キロを記録。緩急のある変化球を織り交ぜながら33球を投じた。4番手リリーフとして、2回無失点の好投だった。

 野球を始めたのは小学2年のころ。高校進学の際に硬式野球部に入ることも考えたが、松商学園の軟式野球部に所属していた兄の姿を見て、自分も同じチームでプレーしたいと思った。

 全国選手権大会に31回出場している強豪で、選手のレベルも高かった。勝利を目指し、練習にひたむきにとりくむ先輩の姿を見て、負けじと走り込んでスタミナ強化に取り組んだ。

 ゴムボールを使う軟式は長打が出にくい。「たたき」と呼ばれる高く跳ねるゴロを狙う打法を織り交ぜながら、コツコツとつないで得点を狙う。「みんなでつないで点を取る。軟式はその意識が強い。そこが魅力で、楽しいところ」と話す。

 昨夏は兵庫県で開かれた全国選手権大会に3年ぶりに出場し、1回戦で敗退。選抜チームで集まった他県の強豪の選手から、刺激ももらった。「去年の悔しさを晴らすために(昨年の)秋から練習してきた。夏までが野球に真剣に打ち込む最後の期間なので、できることをやりきりたい」。この夏、目標は全国制覇だ。

 長野工の小田切音和(3年)もこの試合に出場した。六回の守備からライトに入り、七回には打席に立った。

 「選抜チームに選ばれたときはうれしさよりも大役が務まるのかという不安の方が大きくて、当日まで緊張していた」

 小学4年で野球を始め、中学時代は硬式のチームに所属した。「試合になかなか出られないのがつらかった」。野球をやめるつもりだったが、進学先に軟式野球部があることを知る。「仲が良さそうで、雰囲気も良くて。ここで野球を続けようと思った」という。

 この春には選抜大会を甲子園球場で観戦した。今回、グラウンド側からみた景色は格別だった。「球場ってこんなに広かったっけ」と思ったという。

 打席では初球をファウル。2球目、意表を突くセーフティーバントで一塁にヘッドスライディングをしたが、サードの好守に阻まれた。「夢見ていた舞台だったので、楽しかった」

 この夏の目標は「松商を倒すこと」。高校入学以来、松商学園には一度も勝てていないのだという。「夏の大会が部活の最後。悔いを残さないようにしたい」

 第70回全国高校軟式野球選手権長野大会(県高校野球連盟主催、朝日新聞長野総局など後援)は7月5日に開幕し、上位2校が北信越大会に進む。北信越大会を優勝すると全国選手権大会への出場権を得られる。

 =敬称略(菅沼遼)