植田が2トライと気を吐いた(C)産経新聞社 第二次エディー体制ジャパンの2025年の初試合となるJAPANⅩⅤとマオリ・…

植田が2トライと気を吐いた(C)産経新聞社

 第二次エディー体制ジャパンの2025年の初試合となるJAPANⅩⅤとマオリ・オールブラックス(以下MAB)との一戦が6月28日に秩父宮ラグビー場で行われ、JAPANⅩⅤは20-53と大敗を喫した。ラグビー日本代表(以下ジャパン)、JAPANⅩⅤを通じてのMABとの対戦成績は通算1勝4敗となった。

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 ジャパンに準ずるJAPANⅩⅤとMABとは昨シーズンのこの時期にも2回対戦し、史上初となる勝利を挙げるなど、1勝1敗と互角の戦いを見せ、第二次エディー体制下でのジャパンの飛躍を期待させた。しかし、この1勝だけで、一気にジャンプアップできるほど世界は甘くなく、夏から秋にかけての世界ランキング上位国とのテストマッチでは、ことごとく力の差を見せつけられて完敗を喫した。

 今シーズンの初戦となるこの対戦、ジャパンとしての進化を示した上で昨年に続いて勝利し、この後のテストマッチに勢いをつけたいところだったが、残念ながら昨季からの課題が依然として解消されないことがクローズアップされてしまう結果となった。

 その課題とは守備力の脆弱さだ。この試合、前半のMABの2本のトライは、フィジカルの強いFWの選手が2度、3度と密集近辺を攻めて、ディフェンスの人数を減らした上で大外のパワーランナーにロングパスを放ってトライを取り切るという、ジャパン並びにJAPANⅩⅤと対戦する際の「定跡」通りの戦法によるものだった。そして、JAPANⅩⅤの運動量が落ちてきた後半には、前半なら止められていた密集近辺でのラッシュを止めることができずに次々とゲインラインを突破されて、トライラッシュに見舞われた。個々のプレーヤーの力強い突進と、その突進をフォローし、少々乱れたオフロードパスを苦もなくキャッチしてトライに結びつけてしまう、「ラグビー王国」ニュージーランドのラグビーをたっぷりと見せつけられてしまった。昨年のJAPANⅩⅤより、国際試合の経験の少ないプレーヤーを数多く起用したということもあったが、先週末までスーパーラグビーのプレーオフがあったため、チームとしての練習は実質3日間だけという「急造チーム」のMABに、ここまで差をつけられて負けてしまったのでは、守備力は昨季より向上しているどころか、後退していると感じざるを得ない。

 攻撃面でも、特に後半はノック・フォワードやパスミスなどのハンドリングミスが頻発した。チームの新スローガンは「超速AS ONE」と決められたようだが、スローガン以前に、まだチームとしての一体感が醸成されていない。ループプレーやバックドアへのクイックパス、オフロードパスなどの細かいプレーは、パスを放る側がいかに正確にパスを送るかということとともに、パスを受け取る方もパスを放るプレーヤーのクセやパスの質などの情報をうまく消化できている状態で初めてうまくいく。

 例えば2019年のW杯の際のジャパンはBKの選手を中心にラファエレ・ティモシー(コベルコ神戸スティーラーズ。以下神戸S)のオフロードパスに見事に反応し、チャンスを生み出したり、トライを奪ったりしていた。チームとして動き始めてまだ日が浅いということがわずかな救い。この試合で出た課題を確実に改善していっていただきたい。本来なら、昨季が終了した時点でこうした課題の解決に向かう対策を打ち、今シーズンには昨季よりも改善された状態で臨みたかったところだ。

 一筋の光明はこの試合で2トライを奪って気を吐いたWTB植田和磨(神戸S)の存在だ。植田は7人制で培った優れた状況判断とアジリティーで、MABの守備陣を見事に置き去りにする快走を見せた。2015、2019年のW杯で「ツインフェラーリ」として世界を瞠目させた、松島幸太朗(東京サントリーサンゴリアス)、福岡堅樹氏に比肩する存在になる可能性を秘めた有望株だ。2027年に向け、前途多難ではあるが、ジャパンの進化と植田の飛躍に期待して行きたい。

[文:江良与一]

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