甲子園をめざすのは、選手たちだけではない。裏方として支える「学生コーチ」の存在が、チームの刺激となり、結束を強めている…

 甲子園をめざすのは、選手たちだけではない。裏方として支える「学生コーチ」の存在が、チームの刺激となり、結束を強めている。

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 静岡商3年の戸田来希(らいき)さん、長島拓翔(たくと)さんは今春、選手から「学生コーチ」になった。グラウンドの内外、監督の目の届かないことにも目を配り、練習をサポートする。

 静商の甲子園出場は2006年が最後。昨年は春、夏、秋と県ベスト8止まりで、その先が遠かった。8強の壁を越えるにはどうしたらいいか。曲田雄三監督(41)は、まず戸田さんに、次いで長島さんに「学生コーチとして力になってほしい」と伝えた。「選手を続けるのを選んでいい」とも。仲間にも厳しい指摘ができる戸田さんは、言葉で的確に伝えられる力がある。努力家の長島さんは周りからの信頼が厚い。チームの更なる成長のため、2人にサポート役を頼んだ。

 「憧れの静商で甲子園に」という目標を抱いて入学した2人だが、自分よりうまい選手は大勢いた。最後の夏、背番号をつけてベンチ入りする登録メンバーに入れない覚悟はしていた。けれど――。

 先に打診された戸田さんは、悩んだ末にコーチを選んだ。入学時の目標をかなえるため、自分ができることは何かを考え抜いて決めた。

 3月の終わり、曲田監督は新3年生21人を集めて戸田さんが選手を引退しコーチになることを伝えた。静商でコーチ導入は3年ぶり。戸惑う仲間を前に、戸田さんが決意を語った。「みんなを甲子園に行かせるためにやる」。その後、長島さんも同じ道を選んだ。

 長島さんは選手の投打の成績や練習試合の課題分析を担う。戸田さんはその課題に対応したトレーニングを担当。手分けして選手が動きを確認できるよう動画をこまめに撮り、効率よく練習をこなせるよう工夫する。

 2人の献身的な姿は、選手の意識を変えた。「甲子園へ行くという気持ちが強くなった」と杉山大悟主将(3年)。2人に感謝の気持ちを伝えることも忘れない。

 29日の開会式では、入場行進の列を先導する役を戸田さんが務め、長島さんは静商のプラカードを持つ。7月13日にある初戦まで「まだまだ成長できる」と戸田さん。チームだけでなく、自分も高めていくつもりだ。

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 入学時から希望して学生コーチを務める部員もいる。袋井の酒井悠臣(ゆうしん)さん(3年)。守備練習では正確にノックを打ち分ける。練習試合では木村幸靖監督(44)の隣に座り、改善点を細かくメモして選手たちに伝える。

 中学でもコーチだった。2年の時、思い通りの結果が出なくて練習に参加するのがつらくなり、いちど野球部を離れた。それでも、野球が好きという気持ちは抑えられなかった。顧問の先生に誘われ、秋ごろに再び部に戻り、ノックを打つ役回りに。選手ではなく、自分には支える側が合っている、と思った。

 高校に進み、袋井にはなかったコーチを希望した。木村監督は「選手としてできるんじゃないか」と声を掛けたが、酒井さんの決意は固かった。

 選手でなくてもやりがいを実感する。選手の守備範囲が広がり、成長が分かると素直にうれしい。大学でもコーチとして野球部に入り、将来は体育教師に、と夢はふくらむ。酒井さんの活動を知った1年生が今春、コーチとして入部した。

 それでも。酒井さんに選手の機会をつくりたかった木村監督は18日の練習試合で代打に酒井さんを起用した。高校に入って初の試合。結果は空振り三振。その後の守備では一塁を守り、久保敦主将(3年)がさばいた三塁ゴロの送球を受け、アウトにした。「ナイスファースト!」。チームメートは笑顔で酒井さんをもり立てた。

 開会式ではプラカードを酒井さんが掲げて行進する。初戦は7月5日。「目標は甲子園。やることは変わらない。みんながいい練習をできるようにしたい」(斉藤智子)